世界遺産こと「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」から、ひとつ抹消された。
ドイツの世界遺産、「ドレスデン・エルベ渓谷」。
ドレスデン市内を貫くエルベ川の渓谷で、古い都市であるドレスデンの文化的景観を世界遺産としていた。大戦で壊滅したドレスデンのバロック建築群は、市民の手で一つ一つ復興されたもので、その評価もある。
ところが、市が交通渋滞解消のためにエルベ川に長さ635m、幅4車線のフォレストキャッスル橋を建設する計画を立てたことから、ユネスコは、これによって文化的景観が損なわれるとして、警告を出した。市議会が一旦、競争入札を止めて工事は中断したが、慢性的な渋滞に悩む市民の大半が、ユネスコの対応に反発したこともあり、直接投票で架橋に賛成したため、工事は再開。ユネスコは危機遺産に登録して警告したが、工事は進捗しているため、世界遺産からの抹消を決定した。
抹消されたのは、オマーンのアラビアオリックスの保護区についで2例目となる。
アラビアオリックスの保護区の場合は、保護が失敗した上に、オマーンが保護区を縮小したためだが、今回の場合は、ドレスデン市内の建築群は特に壊されたわけじゃない。その景観が失われる、と言うのが理由なので、市民の反発もかなり強い。
しかし、実は景観が失われることへの、登録取り消しの可能性は、多くの世界遺産でありうる。
同じドイツでも、ケルン大聖堂が危機遺産になったことがある。これも周辺に高層ビルを造ろうとしたことで、景観が失われると判断されたからだ。ケルンの場合は、建築規制を打ち出して免れている。
日本の場合も、広島の原爆ドームが、周辺に高層マンションなどを建設する話が出て、危機遺産に登録されるのではないか、と問題になりかけたことがある。
とかく、世界遺産というと、観光の目玉になると、日本でもいろんなところで登録に向けた運動がある。
だが、勘違いしてはいけないが、世界遺産は、観光の目玉として登録するのではない。
むしろ、それ自体の価値を、「きちんと守っていけるかどうか」で、登録する。
だから、世界遺産を守れない場合は対象の価値が残っていようと抹消されるし、もともと守れないのであれば、価値があっても登録はされない。
その典型例が、富士山だ。
自然の火山としては非常に特異で、文化的価値も高い富士山だが、いまだ推薦されていない。道路の開発、糞尿の垂れ流しなど環境保護が全く出来ていないために、要件を満たさないので、推薦すら出来ないのだ。
自然遺産がダメなら、複合遺産で、と地元などは手を変え品を変えでやろうとしているが、そもそも富士山を守ろうとしていないのだから、どだい無理なのだ。
きちんと保存できるのか、と問われているのであって、観光目玉なのではないのだから、世界遺産に登録してもらい、観光地としてもりあげよう、と安易に考えても無駄だし、世界遺産に登録されたから、これからは観光客も増えて、ウハウハだぞ、などと考えていると、危機遺産になって抹消されてしまうことだってある。
ドレスデンの場合は、深刻な交通問題もあったため、住民の生活とどう調整するのか、難しい課題だったわけだが、日本の場合、自然遺産も、文化遺産も、世界遺産に登録された結果、荒らされたり、落書きされたりと、ろくな事がない。教育的にも台無しだ。
世界遺産というのがなんなのかを、今一度、地元の人がまず考えておくべきじゃないかと思う。

1