交通も、通信も、スポーツも、速さを求めてきたわけですが、今一番、スピードで話題になっているのが、スピード社。水着メーカーの。
公式発表直後から、着用した選手が次々と世界新記録を塗り替えるという、もはや非常識なほどの展開で、競泳の世界に波紋を投げかける事態となった。
日本の選手は、水泳連盟の協定により、国内三社の製品を使うしかなかった。ところが、あまりにも記録ラッシュに選手らが動揺。国内三社に対抗出来る水着の開発を求める一方、スピード社の水着を試着をしてみることが認められ、その結果、国内三社は対抗出来るものをオリンピックに間に合わせることは不可能となり、また試着した日本選手も相次いで記録を塗り替えたため、スピード社の水着は解禁になった。
なんでこの水着がこんなに速いのか。
技術的な細かいところはよくわからないが、理屈を思いっきり単純化してみると、水の抵抗を減らす構造になっているらしい。
伸縮性の高い素材と、全く伸縮性のないパットを組み合わせ、胸やおなかなどのデコボコを平面化し、腰から足にかけての姿勢を固定化することで、身体がまっすぐになり、スムーズに水中を進めるようにしているようだ。
元来から実力のある選手が、この水着を着用すると、驚異的な記録更新となる。もはや、肉体の強化だけではどうにもならないところを水着で強制化しているようなものだ。
このためか、批判的な意見もある。
肉体とは異なる部分の話であり、極端な言い方をすれば、外装式サイボーグのようなものだ。最近、両足が義足の選手が、健常者のレースに出すよう求める出来事もあったが、サイボーグ技術の進歩が進む中、肉体的な努力以外の部分で記録が変わるようでは、本来のオリンピックの意味を問われかねない。
とはいえ、すでに陸上では、シューズの軽量化技術が進められていて、記録につながっているし、逆に柔道では、柔道着の生地をわざと掴みにくいように作ることが拡がり、問題化している。
今回は特に記録が極端に変わったため、大きく取り上げられたとも言える。
選手からすれば、そんな水着、付けなくても、などと最初は言っていても、記録の差が大きくなるようでは、無視出来ない。日本がそうだったように欧米でもこの問題は注目され、どんどん解禁の方向へと加速していく。
そうなると、服や道具や装置を、どこまで肉体の補助として使っていいのか、その問題になっていく。さらに、お金のある選手や組織は導入が進み、そうでない選手は使えないという、テクノデバイトが出てくると思われる。
これからこういう事例はいくらでも出てくるだろう。
日本の水着メーカーは、今回、前例を見ないほどの敗北を喫した。
その理由を、いろんなところに求める意見が飛び交っている。
水着だけに集中して開発を行わなかった、とか、開発資金の投入が少なかったからだ、とか、伝統的な開発を進めていったがために、新しいことに取り組めなかった、とか。他社の開発状況を甘く見ていた、と言う意見もある。
いずれも間違いではないだろう。
ただ、日本の最近よく見られる企業体質もあるのではないか。
ある中規模の素材メーカーが独自の素材を開発したのに、大手三社は採用せず、その後、スピード社の水着が記録ラッシュすると、あわてて採用を決めたが、今度は、そのメーカーとの共同研究を拒否し、データも渡そうとしないなど、閉鎖的な対応を示したりする。
技術や開発状況の秘密保持、と言うよりは、単に大手の立場で上からの態度を取っただけなのではないか、と疑念もわく。
自動車メーカーのマツダが、下請けメーカーに、契約違反の一方的な支払額の削減を行ったり、家電量販店のヤマダ電機が、店舗の開店準備や展示品のリカバリにメーカーの社員をただ働きさせるなど、明らかに大企業の倫理的問題が相次いでいる。
大手三社の企業倫理は、実際のところどうなのかはわからない。
三社の社員も、一生懸命研究しているだろう。
しかし、今回のスピード社の問題は、ある種の弛緩を戒める衝撃の効果があったのではないか。
北京オリンピックは無理だが、今後の国際競技を目指して、大手はいろんなところを改め、下請けも素材メーカーも含めて、総合的に研究開発を進めて貰いたい。