糸魚川に近づいていた。街に入る手前のガソリンスタンドで給油する。既に、彗星を見たキャンプ地を出てから10時間以上が経過し、夕陽に照らされた西の山が美しい。
一際高く、独特な奇妙とも言える形をした山がある。
スタンドの従業員に
「あれは何という山でしょう?」
と、尋ねた。
「焼山です」
制服を着た若い男はぶっきらぼうな感じで答える。毎日見ていて、そんな山にはなんの興味もないという顔をしている。ヨハネスと私は車を出ると、その山をじっくりと見るため広い野原へ出た。
「美しい山です。此処は日本の中心です。焼山を中心に、左の山と右の山でトリニティを作っています」
トリニティとは、キリスト教で、神、キリスト、聖書を一体と見る三位一体という意味である。その三位一体の構図が、ヨハネスの目から見るとここ糸魚川で現れているらしい。中心には焼山、左には火打山、右には雨飾山というわけだ。背後には妙高、黒姫という日本でもトップクラスの山々が控えている。白い服を着たヨハネスは、さながら山々を背景に説教するキリストの如くである。彼はやはり、芸術家的な要素よりは宗教者、求道者のイメージが強いように思われる。そのイメージが彼の作品にもよく現れている。
糸魚川は落ち着いたいい街だった。風呂好きの私は、このまちで銭湯を探したかった。街の中で停車して歩いてみたがなかんか見つからない。道路脇に停車している、小さなトラック運転手に銭湯の在処を尋ねると
「車で私についてきなさい」
という。
くっぷのいい人で職業は魚屋だという。
そんなに遠くないところに「滝之湯」という銭湯があった。案内してもらったお礼を、魚屋さんに告げると、ニコッとして、さっさと消えてしまった。
番台で金を払い、湯に入る前にトイレへ行く横に入り口を入る。窓のないくらい通路を行くと、木材がびっしりと置かれている。銭湯の湯を沸かすための木の貯蔵庫らしい。大きな焚き釜もあり、ゴウゴウと炎をあげている。ガスなどではなく、木を焚いて湯を沸かしているところが糸魚川らしくて好ましい。ヨハネスと私は秘密の通路のようなところでしばし、炎に見入っていた。
(続く)

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