重く垂れた雨雲の下に街の灯りがまたたきだす頃、ビルの最上階のバーラウンジ「JIMMY'S」で私の知らない独りの男がギターを提げてステージに上がった。
おもむろにひきだした曲はビートルズのナンバー。たった一本のアコースティックギターが、二本いや三本以上の拡がりで会場を包み込み、観客は静寂と高揚と緊張、流れる音の心地よさにただただ身を委ねるばかり。
何者だ?この還暦前後に見えるムーミンの顔とアフロの髪の男は?
ビートルズ曲のメロディとコーラスとリードギターとサイドギターとしかもベースさえ同時に奏でる驚異のテクニックと曲に込めた情感は、エレキバンドの圧倒的な音量や激動とはまた別の世界。
圧巻は「A Day In The Life」
オーケストラやシンセサイザーしか表現出来ないと思われるこの壮大な世界を生ギターの一本だけで見事に伝えた。背筋が騒いだ。血も騒いだ。邂逅だ。
男の名は、告井延隆(つげいのぶたか)
「センチメンタルシティロマンス」のバンドリーダーでもある。ステージを降りたら普通の気のおけない飲み仲間のようなオッサンだった。
ギターの演奏とビートルズの曲の奥の深さに酔いしれながら、雨上がりの明治通りを秘密基地に向かった。手に提げた、買ったばかりの彼のCDとTシャツが開封をせかしていた。思いがけなく、いい雨の夜になった。


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