『考える脳 考えるコンピューター』
ジェフ・ホーキンス サンドラ・ブレイクスリー(著)
伊藤 文英(翻訳)
2005年
ランダムハウス講談社
☆☆☆☆
原題は、"On intelligence: How a new understanding of the brain will lead to the creation of truly intelligent machines." そう、これ、コンピュータの本ではなく、神経科学の観点から脳について書いた本なのである。一般読者を対象に書かれていて読みやすい。翻訳も大変良いと思う。それに何よりも面白かった。
著者のジェフ・ホーキンスは、ハンドヘルドコンピュータPalmの生みの親として知られるシリコンバレーの企業家・技術者。大学等に勤める脳研究者ではないが、大学院で生物物理学を学んだ経験がありもちろん素人というわけではない。また、そもそもビジネスに精を出したのも、脳について好きなように研究できる自前の研究所を設立することが目的だったらしい(2002年に念願の研究所を設立し、現在はビジネスと研究の2足のワラジをはいている、とのこと)。
著者の関心は明確で、(知能を実現する)脳のメカニズムを解明し、知能を備えた機械をつくること。方法論としては、ニューラルネットの「次」を考えているようだ。著者は、知能の本質を自己連想記憶による予測と見極め、そのような知能は、大脳新皮質の神経学的な構造に依存して実現していると考えている。同様の原理の働く同様の回路を人工物で構築することができれば、「予測する機械」もまた構築可能、というアイデア。著者によれば、ニューラルネット研究が満足な結果を生み出すことができなかったのは、それが、知能の本質を見誤っているから、また、大脳新皮質の実際の構造をモデルに組み入れていないから、ということになる。
著者自身も述べているように、本書で述べられている個々の知見は特に目新しいものではない。著者は、知能の本質は予測であるとの自説を展開することで、脳の働きを解明する上での指針を提唱しようとしている。サイエンスライターが共著者を務めているだけあって、日常生活上の適切なたとえ話が数多く示されており、著者の説が非常に平易に述べられている。著者のアイデア自体に興味がないとしても、人工知能研究・ニューラルネット研究の歴史と限界について簡潔にまとめてある冒頭部を読むだけでも、初学者には助けになるのではないかと思う。
読んでいて『
心にいどむ認知脳科学』(酒井邦嘉 1997年 岩波書店)を思い出した。
本文約245ページ。

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