「8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記―」
書評(軍事関連書)
旧日本陸軍に、「士魂部隊」という愛称を持っていたものがあります。戦車第11連隊がそれで、漢数字の「十一」をちょっと組み替えると「士」の字になるということのようです。なかなかうまい。
大野芳「8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記」
(新潮社、2008年)

総合評価:★★★★☆
すでに太平洋戦争は終戦を迎えていたはずのその日、千島列島最北端の占守島では、新たな戦闘が開始された。上陸してくるソ連軍に対し、島の日本軍は反撃を行うことを決意する。深い霧に包まれた戦場へ、戦車第11連隊「士魂部隊」が突撃していく。
それは避けることのできた偶発的な流血だったのか、それとも計画的な侵略行為だったのか。そして、終戦を知りながら兵士たちはどのような思いで戦っていたのか。元兵士たちの証言から、ことの真相に迫る。
ポツダム宣言受諾後の北千島で行われた、占守島の戦いについてのノンフィクションです。太平洋戦争末期の敗戦続きの頃、日本軍の華々しい活躍があったとされる戦闘で、日本陸軍に興味があればご存知の方も多いかもしれません。
本書は、その戦闘の実相を、多くの元日本兵の証言を交えながら追っていきます。ポツダム宣言受諾を知った後の気の抜けた様子や、一転、手の震えでふんどしの紐が結べない出撃直前の緊張など、生き生きとした描写が魅力的です。
著者は、従来の通説に対して、証言を頼りにいくつかの疑問を提起しています。
特に、戦闘開始時刻と、軍使派遣の経緯の2点について詳しく述べられています。前者については、日ソ両軍記録の時差が2時間ではなく3時間であるとしたうえ、戦闘開始ももっと早い時刻、通説の18日未明ではなく表題の通り17日であったのではないかと指摘しています。後者については、これまで基礎資料とされてきた軍使随員の証言に対して、軍使本人の証言との矛盾点を挙げて検討を加えています。
このほか、ソ連船マリューポール号の座礁事故は偵察目的の謀略だったという説を主張されたりしています。このマリューポール号の件など、所によっては考察が乱暴と感じられました。
妙に心に残ったのは、著者がかつての証言者を訪ねていく下りです。矛盾点について確認を取ろうとするのですが、しばしば、もはや答えられない元兵士たちの状況が待っていたようです。
いろいろな意味で証言の面白さと限界が見えて、なかなか興味深い一冊であったと思います。そして読み終えたとき、こうした検証ができるのは、今が最後なのだとひしひしと感じます。
総合評価:★★★★☆(真相は霧の中に)