軍事史関連では、自虐主義だ、はたまた歴史修正主義だと際どい分野があります。日本では主に日本軍の戦争犯罪関連で、後はドイツの強制収容所関連が話題になるくらいだと思いますが、今回はイタリアのケースについて。
アンジェロ・デル・ボカ(編)「ムッソリーニの毒ガス
―植民地戦争におけるイタリアの化学戦 」(大月書店、2000年)


総合評価:★★★★☆
第二次世界大戦前、エチオピアに侵攻したイタリアは、国際法で使用が禁じられていた毒ガスの大量使用により勝利を得たと言われる。
しかし、一方で、その使用の事実について疑問を呈する見解や、独裁者ムッソリーニの関与は無かったとする見解も示されてきた。
はたして、真実はいずれにあるのか。
4人のイタリア人研究者が、多数の一次資料を駆使して、イタリア軍によるエチオピア戦争での化学兵器使用の詳細を立証しようとする論文集。
編者のデル・ボカは、アフリカにあったイタリア植民地の研究家であり、ジャーナリストである人物です。ジョルジョ・ロシャら残りの研究者は、いずれも軍事分野の専門家です。
なお、4人の研究者の計5編の論文のほか、デル・ボカが編集したムッソリーニの化学兵器使用関連の命令群と、日本での発行を企画したイタリア人平和活動家による日本語版序文が含まれています。前者は、日本では非常に珍しい一次資料と言えます。後者は、エチオピア侵攻の概説としてよくまとまっています。
デル・ボカは、これまでイタリアの戦争責任追及に力を入れてきた人物のようです。そのため、彼の担当した1章と4章は、ややその情熱が先走りすぎているような印象を受けました。ただ、4章にまとめられたエチオピア側記録による被害状況などは、なかなか珍しい内容と思います。
残る3人の軍事研究家による論文は、それぞれ非常に丁寧にイタリア軍の作戦記録類を調査した結果をまとめたもので、使用された化学兵器の種類や数量、効果などを詳細に述べています。特に、ロベルト・ジェンティッリによる5章のガス爆弾投下記録は、中隊レベルの陣中日誌まで使って明らかにされたもので、執念の産物といった感じです。声高な非難ではありませんが、細かな事実の積み重ねで国際法違反の事実を固めていて、かえって説得力があります。
興味深いと思った点を挙げると、毒ガスの軍事的効果はあまり無かったのに、なぜかイタリア側上層部は毒ガス使用に固執していたようであることです。複数の著者から、通常兵器のみでも、イタリア軍は迅速に勝利できたのではないかと評価されています。
また、これは著者によって評価が割れている部分ですが、イタリア軍はあまり化学兵器使用の事実を隠蔽していないのではないかと思えることです。スペイン内戦への介入記録が秘匿されているのとは対照的だといいます。
読み終えて一つ感じたことは、イタリア人向けに書かれた本であるということです。イタリア人に戦争責任を反省させようという部分に編者の興味が向いていて、相手方のエチオピア側のこと自体については、それほど関心が無いのかなという印象を持ちました。まあ、これは、他の著書を読まないと判断できない部分ではあります。
総合評価:★★★★☆(日本で発行されたのが不思議な珍しい内容)