中国人船長が釈放された。処分保留。勾留期限すら待たないでの釈放だった。船長は中国から来た航空機にVサインして乗り込み帰国した。
全くこれは予想外だ。いくら弱腰の政府とは言え、起訴まで持って行かずに処分保留で釈放するとは。
政府は検察の判断で関与していないと言うが判断を容認した。しかし、那覇地検の次席検事の会見では、「日中外交関係に考慮して」と言っているから、政治的配慮であることを示している。三権分立上、検察は外交問題を理由に独断することは出来ないから、それをあえて口にしたのは、政府の圧力があったことを示唆したものとも言える。法治国家の原則をねじ曲げる政府のやり方に地検としては憤懣があったのではないか。
政府は従来、領土問題は存在しない、とした。しかしそれならば、きちんと国内法に則って処置すべきだった。勾留期限すら待たず、権限を越えて外交判断で釈放した地検の方針を、政府は一切批判もせず(地検に押しつけたわけだからだろうが)、それを認めたわけだから、これで、日本政府は公式に尖閣諸島は中国に主権があると認めたようなものだ。領土問題は存在しない、と言うどころの話ではなく、一気に飛び越こしてしまった。
国際的にも、圧力に屈する国だとみなされてしまっただろう。
政府や企業の間では安堵感が拡がっていると言うが、安堵出来る話ではない。
なぜなら、中国がこれで矛を収めるわけがないから。
圧力が功を奏したとして、ますますエスカレートするのは目に見えている。
今後、レアアースの輸出中止や在中国日本人を人質にとって、尖閣諸島から出ていけ、と言ってきたら、政府はどうするのだ?
大挙して中国の漁船や活動家の船が尖閣諸島に来たらどうするのだ?
竹島のように実効支配を認めるのか?
尖閣諸島付近で操業する日本の漁船も、今後中国側から拿捕される可能性が出てくる。
中国で活動する日本企業も不利に追い込まれていくだろう。雇用問題で中国政府機関は日本企業を助けず、中国企業に有利な政策を推進する。技術の供与を強要し、特許をないがしろにする可能性もある。これで安堵するのだとしたら、日本企業の経営者はバカばかりだ。
ガス田の共同開発もこれであり得なくなってきた(そもそも「共同開発」ということから問題だが)。
今回日本が屈したと中国側は受取り、宣伝するだろうから、対中外交は大幅に後退し不利に追い込まれる。
今回の釈放で中国の態度が軟化するだろう、などという甘い考えに基づいていたのなら、大間違いだ。現に、釈放について、中国は歓迎の意も示さず、当然だ、そもそも逮捕が間違いだった、として、日本へ賠償を請求している。賠償請求されるとは、日本側は想像もしてなかったのでは。これで賠償金を払ったら、政府は内外から文字通り見捨てられるだろう。
民主党が主張する「戦略的互恵関係」はもうない。互恵は失われたからだ。
中国にとって、日本の重要性と価値が下がったことも、強気に出た背景だろう。これは日本企業のバブル以降の目先の利益ばかり追求して、技術力を維持する努力を怠った結果も一因がある。事業仕分けで貴重な技術をないがしろにする民主党政権の政策とも共通した土壌である。
一方で、日本人の中に、中国に対する嫌悪感が非常に増した。中国という国に対する不審感も強まった。中国企業は日本市場に進出する際に、やりにくくなった部分もあるだろう。ただ日本人はお人好しなところがある。「気にしませんよ」「国と民間は別ですから」などと愛想笑いしているうちに、国と民間が一体の中国企業との競争に負けていくことは十分あり得る。日本企業の中には、公用語を中国語に、などという経営者も出てくるのではないか。
逆にリスクの高い中国に依存しない経済活動を主張する人も増えるに違いない。
日本がすべきだったのは、法に基づいて厳正に対処し、中国との問題は、中国の不法な行動を国際的に訴え、日本が法治国家、民主国家であることをアピールし、中国に不満を持っている国々と外交的に交流を持って、包囲網を築くことだった。しかしこれでは、民主国家が一党独裁国に負けた、と言うことになる。なんのための法、なんのための民主主義か。
他の中国周辺の国々も、今回の日本の対応には大いに失望しただろうし、外交力がないとみなされてアメリカも基地問題で譲歩しなくなる。国際舞台での日本の発言力は完全に失墜である。
法をないがしろにし、領土を守ろうとせず、外交的に簡単に屈し、国内の一司法機関の責任にして政府は責任も取らない。
今回のことは、まったく無能な民主党政権らしいと言えばらしい話だが、将来に大きな禍根を残す大失政になったと言える。

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