ホワイトカラーイグゼンプションについて、厚生労働大臣は、改めて、法案提出の意向を示した。
「国民の理解が足りないと思われる」とし、「懸念を十分払しょくするような法律的組み立てを固める」と言うことだそうだが、「理解が足りない」と「理解しがたい」とは別である。内閣支持率が下がったときも、「国民の理解が足りない」と国民のせいにしたが、これは都合の悪い問題が起こったときの、政治家の常套句である。
経団連が、この問題をやたらと推している。
ホワイトカラーがその労働内容に比して、評価が低いから、自由裁量性にすれば、効率も上がるだろう、と言ったことだ。
しかし、時間外労働に対して「割増賃金(残業代)を支払う義務」がはずされるわけだから、当然、サービス残業を堂々と行わせることが可能になるわけである。それはすなわち、残業代を浮かせることが出来る。残業代11兆5800億円を浮かすことが出来る。というわけ。ただでさえ、低賃金の非正規社員を増やしている企業だ。残業代を浮かすのが目的というのは明らかである。
某安倍首相は、「残業代がなくなれば、早く帰宅できる」などと言ったとか言わないとか。残業があるかないかは、残業代の有無で決まる訳じゃなく、企業が命令すること。「残業代が出ないので、帰りまーす」などと言えるかどうか、首相はわからないらしい。彼は社会で働いたことがないのだろう(笑)。
もうひとつが、国際競争力で、日本市場が閉鎖的だと批判している、アメリカの企業が活動しやすくなること。アメリカ政府の圧力があった、と言う説もある。親米派の政治家や官僚が、アメリカの顔色と企業の顔色をうかがって推し進めようとしている、と言うことはありそうだ。
経団連は、自由裁量制職種に加えて、年収条件を出しており、それによれば、
法令で定めた業務の従事者、労使委員会の決議により定めた業務で、月給制か年俸制の年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者。
もしくは、労使協定により定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が700万円か全労働者の給与所得上位20%以上の者。
としている。
ただ、言うまでもなく、年収が400万や700万の人が、一人で働いているわけではない。部下がいる場合もあり、また、個人の能力に依存する職種であっても、その人に関わる職場の人がいるのである。
その人たちも、当然、条件に当てはまる人の残業に巻き込まれて、残業をやらされる可能性が出てくる。今ですらサービス残業が当たり前なのだから、当然、残業代が出ない可能性が高い。年収条件など、現実的ではない。しかもいずれ、その条件すら拡大されるだろう。
そもそも自由裁量制なら、今の法制度でも十分可能である。逆に、今の制限の中でも、サービス残業は行われていて、それを取り締まることは出来ないでいる。
労働者の立場を保護するはずの厚生労働省が、自らそれを壊そうというのだから、大したものである。しかも、その厚生労働省では、自分たちの在宅ワーク実験をやろうとしている。民間人には残業しろ、と命じて、自分たちは家でのんびり仕事をする、と言うわけ。
市町村の地方公務員では、328市町村が就業時間を8時間未満(7時間半〜7時間45分)としている。しかも、給与に算定する「休息時間」を認めている自治体は全自治体の82.6%にあたる1558団体という。
このような中で、ホワイトカラーイグゼンプションをしようというのだ。
内閣府経済社会総合研究所では、日本では税や社会保障による所得再分配の恩恵が欧米と比べ低所得層に薄いとしている。高所得者層には負担が軽く、低所得者層には相対的に重い、ということ。これは、経済協力開発機構(OECD)が2000年に調査した結果でも、「所得がその国の平均的な水準の半分に満たない人口の割合」を示す「相対的貧困率」が、日本は米国に次いで第2位であるとしていることからも言える。実は相対的貧困国なのだ。
ホワイトカラーイグゼンプションの導入には、野党は反対しているが、与党の中にも反対意見が増えている。
イグゼンプションを推進する企業側からの献金はほしいが、国民の反発を買って票を失うのも怖い。きっと今頃、どっちにいい顔をすべきか悩んでいることだろう。

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