東京駅前に建つ東京中央郵便局。
ここの再開発が問題になりつつある。
日本郵政は、この建物を解体して高層ビル「JPタワー」を建設する計画を推進中で、すでに大手ゼネコンが工事を受注し、解体に向けて作業を進めている。
計画では現在の建物のロータリー側の表面を一部だけ残して、他は解体し、38階建てのガラス張りの超高層ビルにする。
この工事については、建築この計画には、建築学会や文化庁も反対を表明していた。この建物が、郵便の歴史とともに、昭和6年に完成したモダニズム建築の代表で、建築史的にも貴重な建物だからである。
本来なら文化財に指定してあるはずだが、ほとんど何もしていなかった。現在、重要文化財にすべきだという意見も多い。
もともと官僚も政治家も、近代建築を文化財として評価していない。石原都知事などはその代表だ。これまでにも貴重な建築物が無残に壊されてきた経緯がある。
実は、この中央郵便局と同じ設計者吉田鉄郎の手で設計された近代和風建築の傑作である最高裁判所長官公邸も、解体是非論が起こっている。
モダニズム建築は、四角い窓が並ぶシンプルなデザインなので、文化財とみなされにくい。同時代の古典主義建築である明治生命館(昭和9年)や三井本館(昭和4年)は重要文化財に指定されている。近代和風建築も同様に文化財とされにくい。そういう事情もあった。しかし、同じ古典主義でも銀座ビルのように解体されたものもある。
近代建築は、文化財としてなかなか認められなかった経緯がある。
鳩山総務相は、かんぽの宿売却問題があったことから、不動産事業についても目を光らせることにし、そこで問題になったのが、中央郵便局であった。彼は、この建物については、重要文化財級であり、失われれば、国家の損失、国辱である、として、塩谷文部科学相、金子国土交通相とともに保存を求めていく方向で動いている。
日本郵政は、計画の前に、有識者らを集めた「歴史検討委員会」に検討を委託した。
委員会は、有識者7人と、日本郵政の役員2人によって構成され、議事進行役の委員長を除く有識者6人は、すべて全面保存を主張した。
耐震構造や避難経路の整備さえ行えば、現状の建物で問題はない、という結論だった。
ところが、委員に参加した日本郵政の役員は、高層化推進担当だったため、表向きはこの委員会の報告書を踏まえて、としつつ、結論を無視して高層化に着手した。つまり最初から結論ありきで、建前だけ委員会を開いたということだ。
委員たちは遺憾の意を表明したが、日本郵政は報告書を一部でしか閲覧できないようにして、批判を押さえ込もうとしたようだ。いま、この手続きの経緯も問題になっている。
日本郵政としては、高層化計画は進めていく予定で、すでに現ビルもかなり壊されている。このままでは、重要文化財指定は無理だろう。
だが、安易な利益追求であると、各界の反発も高まっており、今後計画変更もありうる。また日本郵政が試算している高層化による収益(年間250億円)も、このご時世では甘すぎる試算であり、当然ながら疑問視されている。
現在、東京駅舎を元の姿に戻す工事も進められており、かつて解体されてしまった三菱一号館も復元された(ただし、そこにあった丸の内八重洲ビルは解体されてしまったが……)。
それらを考えると、できるだけ、元の状態で残してもらいたいものだ。
ちなみに日本郵政は、やはり吉田鉄郎の設計した大阪中央郵便局(昭和14年)も解体を計画している。こっちもなんとかして貰いたい。
民営化して出来たのは、目先の利益ばかり追及する会社だった、という風にならぬように。

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