フィリピンで、不穏な状況が拡大している。
アロヨ大統領側が、クーデター計画があったことを理由に非常事態宣言を出し、反体制派の軍人や政治家、警察官僚、マスコミ関係者を次々と拘束している。それに対し、軍人の一部が武装蜂起して基地を占拠したり、反政府集会に歴代の政治家が出席したり、政権と反政権勢力の対立が表面化しつつある。
そもそものきっかけは、大統領の選挙における不正疑惑だ。大統領が選管のトップに電話をかけ、100万票以上の差で勝てるかどうかを聞き、それに対し、「そうなるようにします」と答えているのが、見事に録音されていて、マスコミを通じて公開されたからだ。大統領は、軽率な発言だったことを謝罪し、電話が本物であることを認めたが、票の不正操作があったかどうかには言及してないため、疑惑が深まり、辞任を求める動きが拡大している。
これにはもちろん、解決しない貧困問題、軍と政府の対立関係、イスラム原理主義によるテロなど、様々な背景が絡んでいる。それらを解消する公約を掲げた大統領だけに、うまくいかないどころか、不正が明るみになれば、余計に反感を買うというわけである。
25日は、20年前の同日、マルコス独裁政権に対し、民衆が蜂起して政府を打倒した記念日である。
ピープルパワーと呼ばれた市民革命のあと、いくつかの政権は政府と軍の調和、経済改革などを行い、比較的まともだったが、その後はろくな政権が出てこず、情勢は悪化するばかりである。皮肉にも、それらの政権を樹立させたのもまた民衆である。品も教養もないアクション映画スターなどを大統領にするのだから、世話はない。うまくいくはずもないのである。
タイでも今、政権関係者の株取引などに関する不正に対する反発が拡がり、反対運動が激化している。
旧ソ連から独立した東欧や西アジア中央アジアの諸国でも民衆が独裁政権に対して批判運動を展開し、いくつかの政権が倒壊した。
いずれもピープルパワーであり、また政権側に不正や腐敗があったからこそ、そうなったわけで、当然の成り行きと言える。
が、同時に、歴史上市民革命のあとには、ろくな事が起こってない。
革命直後には、旧政権側の人間や貴族階級、企業関係者などが襲われて殺されたりし、次に新政権内部での内紛が発生し、さらに革命時に民衆の都合のいいことを並べ立てたものの、そう簡単に世の中が良くなるわけでもないから、すぐに民衆の不満を買うようになる。そして第二第三の革命や、暴動、反乱などが頻発するようになる。
ついには、新たな独裁者が現れたり、対外戦争になったり、内戦が勃発したりして、国民が疲弊しきるまでそれが続くことになる。
ピープルパワーというのは、それが当然の権利であるから、腐敗の政権に対する正当な行為として市民の力が現れるわけだが、同時にこれは、感情の発露によって生じる物でもあるから、前後において冷静さがない。スムーズにうまくいくことは滅多になく、大抵どこかで次の破綻を招く。
市民革命というのは、ただそうだから正しいと見なされ、そう報道され、一方的に評価されるが、実は、市民革命が起き始めた段階で、どううまく導いていくかを考えなければならない。でないと、あとあとになって、革命の主役であった市民らがさらなる犠牲者となる。その犠牲は、ある意味、無責任に革命を評価し盛り上げた部外者にも責任がある。
今、ちょうどフィリピンは重要な政治的状況にさしかかっているように見える。ここで政権側が権力を維持しても、あるいは民衆が革命を起こして政権が交代しても、いい結果になるとは言えないだろう。外国がその国の政治に干渉するのは良くないが、いずれの側に対しても、冷静に解決する方法を考え、共に検討できるようなやり方は出来るかも知れない。
結果としての歴史を参考に、進行中の歴史の先を検討することは出来る。そう言う見方があることを人々が知ることは大事だろうと思う。どの国の人間も。

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