厚生労働省が発表した2005年の日本人の平均寿命。
6年ぶりに前年を下回ったという。
女性は85.49歳と、21年連続の1位、男性は78.53歳で世界4位である。
平均寿命とは、0歳時における平均余命のことで、まあ、簡単に言えば、その赤ん坊が、あとこれくらいは生きる、と言う目安である。
病気の克服、栄養状態、その他の様々な理由から、なかなか死ななくなったために、平均寿命は伸びている。
国連が出した試算に寄れば、2100年における日本人の平均寿命は、女性が108歳、男性が104歳だそうだ。
しかし、それだけの年齢まで生きたとしても、このままの状況が推移すれば、世の中にいる大半の人間が老人ばかりで、ひどくアンバランスで活気のない社会が出現するだろう。現実的には、よほどのなにか特殊な技術的変化がない限り、そのような社会は維持が出来ないので、実際には、平均寿命がそこまで行かない可能性もある。
社会的な要素を除いて、人間がどれくらいまでなら生きられるのか、と言う点だけを見ると、これまでの公式記録などから、約120年、と考えられている。
公式上の最高齢者はジャンヌ・ルイーズ・カルマンというフランスの女性で、122年と164日生きた。この人の親兄弟はいずれも長命なので、なんらかの遺伝的要素があるのかも知れないし、生活環境が原因かも知れない。
寿命を延ばすことは出来るか、と言う問題は、生命科学技術だけでなく、そもそも生命とは何なのか、と言う根元的な問題にも関わるため、難しいところもあるが、一般的には、老化を抑えられるかどうかにかかっている。
老化とは、細胞が分裂しなくなり、増殖しなくなる状態である。顔にしわが出来るのもそのためだし、足腰が弱くなったり、記憶力が落ちたりするのもそのためだ。もちろん、これらは鍛えることで抑えることは出来る。しかし根本的に寿命を大幅に延ばすことにはならない。
細胞が老化する原因は、細胞分裂の時に、染色体の末端にくっついているテロメアという部分が短くなり、それが一定の長さ以下になると、細胞が分裂できなくなるからである。なぜ出来なくなるかというと、テロメアは染色体を維持する機能を持っているからで、テロメアを失うと染色体は不安定になり、壊れたり、他のとくっついてしまったりする。そうしないために、短くなったテロメアを残そうと分裂しなくなるのだ。
ちなみにガン細胞は分裂が止まらないために起こる。老化して死ぬか、癌化して死ぬか、と言うことだ。
このテロメアをなんとか減らさないように出来れば、老化することが無くなり、少なくとも寿命で死ぬことはなくなるのではないか、と考える科学者も多い。もちろん、そのために何かしらの問題が発生する可能性は否定できない。
理想的な意味で言えば、ある程度成長した状態で(たとえば20代前半くらいで)、成長は止まり、以後、老化せずにずっとその若さで生きられるとすれば、それを望む人は多くいるだろう。
その代わりに、そう言う社会は、確実に今の我々の社会と異なる。人間関係の考え方も大きく変化しているのは間違いない。それがどんなものかは、多くのSFがテーマとして取り組んでいて、それぞれに異なったものである。
ただ、フリーセックスの社会になっている、とか、子供を作ることを制限している、と言ったように、家族関係の破綻を上げているものが多いようだ。
情報が永遠に溜まっていくため、頭でっかちになっているという考え方もある。機械を第二の脳として使うようになる、というものもある。
人間は死ぬことによって、生物としての情報を遺伝子で受け継がせ、社会文明という情報をミームとして残していくと言われる。
そこに様々な他の情報が混ざる。遺伝子なら、父親と母親の遺伝子が混ざり合うし、文明なら他の文明が入ってくる。
そうすることで、情報の硬直化を避け、多様化を生みだし、破綻を招かないようにして、永続性を確保しているとも言える。
人間が永遠の寿命を得られたとき、おそらくその問題が大きくなっていくだろう。
そもそも生命とは何なのか。なにを目的に、どこへ向かっているのか。
単に若くて長生きしたい、と言うだけでなく、いろんな意味で、寿命というのは興味が尽きない。

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