やっぱり、寂しいです。
冥王星が惑星から外されたこと。
たかが遠くの星じゃん。
というには、なんだろ、この寂しさは。
国際天文学連合は、総会で、圧倒的多数の可決によって、冥王星を惑星から除外した。
除外したのは、新たに定められた定義に当て嵌まらなくなったから。
すなわち、
「太陽の回りを公転し、自重によって球形をした、その軌道上の圧倒的に主要な天体」じゃないから。
このうち、
「軌道上の主要天体」
これがミソだ。
ほかの8つの惑星は、その公転軌道上に、他の大きな天体がない。惑星に比べてずっと小さい衛星と重力に引っ張られて付いてくるミニサイズの小惑星があるくらいだ。
ところが冥王星には、カロンという伴星がある。ニュースなどでは衛星と紹介されているが、カロンは冥王星の回りを回っているわけじゃなく、冥王星とお互いに回りあっている二重星、つまり必ずしも衛星じゃないので(大きさも冥王星の半分くらいある)、定義で「その軌道上の主要な惑星」とすると冥王星は果たして……となる。
さらに冥王星の軌道から外側には、同じような星がいくつも見つかっている。
だから、他の惑星と違い、冥王星は条件に当てはまらない。
なかなかもって、冥王星を狙い撃ちしたような定義だ。
というか、惑星の定義を論ずるようになったのも冥王星が他の惑星と違うためなので、狙い撃ちも当然だけど、惑星から外すために定めた定義とも言える。
冥王星を惑星にすると、カイパーベルト地帯にある同種の他の星も含めなければならなくなりキリが無いからというのが「科学的本音」のところだろう。
冥王星が他の惑星と明らかに異なるのは客観的な事実だが、科学的理屈で定義したように見えて、実は特定の結果をあらかじめ用意していたへりくつじゃないか、と言う気もしなくもない。
冥王星に同情心を寄せるような意見に、「残念でもなんでもない」と天文学者らがやたらと声高に主張してるけど、それは非科学的だ、と憤慨する一方で、彼らの心理の中で、なにがなんでも冥王星を外したい主観的な心情が滲み出ているようで、なんか科学的な感じがしない。客観に始まり主観に終わったようなものだ。
そもそも冥王星型天体を惑星に含めて、何の都合が悪いのだろう。
外す方が後々問題が出てくるようにならないか?
例えば、カイパーベルト地帯には冥王星と似た星が次々と見つかっているので、冥王星を含めて、ひとまとめに分類しようという意見が出ているが、もしこの一帯で水星や火星以上の大きさがあり、太陽の回りを公転し、その軌道上唯一の主要天体が見つかったら9番惑星にするんだろうか。その場合、冥王星はどうなる? 同じカイパーベルト天体なのに、無視?
それとも、それより小さくなる水星や火星を惑星から外すんだろうか。
8つの惑星にしても、天王星と海王星は、木星型ガスジャイアントから分離して天王星型惑星と呼んでいるし、地球型でもいろいろ違いはある。地球や金星と違い、水星と火星はかなり原始惑星の状態を残しているという説もある。
冥王星ほどではないが水星もかなり小さい。一部の衛星よりも小さい。
冥王星などを含む、「海王星以遠天体」には、例えばセドナのように軌道が他に類似点のない不可思議な天体もある。
セドナはさほど大きくないが、もし直径4000〜5000kmクラスで、セドナのような極端な軌道を描く星が見つかったら、どうするんだろう。あり得ない話ではない。
カイパーベルトからオールト雲までの間の一帯は、8惑星の軌道なんかよりはるかにデカイ。そこに存在する天体の総数は計り知れない。なにがあるかわからないのだ。
さらに他の星系にも何種類かの惑星が数多く発見されている。
今のところ、ほとんどが恒星の近傍をかすめて公転する巨大なガスジャイアントだが(そんな星、太陽系にはないけど)、そうではない地球型惑星の大きいやつと思われる星も、すでに見つかっている。
それらの存在も、やがて「惑星の定義」に引っかかってくるのが出てくるだろう。
また、太陽系の初期には、同じ軌道上に複数の惑星クラスの星があったことがわかってきている。
地球の月は、火星サイズの惑星が原始地球と衝突して出来たものと言われる。この火星サイズの惑星、実は地球軌道上に生まれた兄弟星だというのだ。
もし他の星系で、同じ軌道上に、直径が6000km〜12000kmクラスの星が複数あったら、その場合、どうなるんだ?
一番大きいのだけ惑星にするのか?
それとも、全部惑星にするのか? 一定の大きさ以上で決めるのか?
さらに、球形じゃない巨大な星が見つかったら?(まあ、考えにくいけど)
問題が、冥王星からエライ方向へ行ってしまいそうである。
それにしても、これだけ大反響の「冥王星外し」。
冥王星がちっちゃな天体だからこそ、外されもすれば、同情もされるわけである。これが木星みたいな奴だったら、逆だったかも知れない。
一番科学的にはっきりしたのは、万雷の拍手で冥王星を除外した天文学者らと、多くの一般市民の心情がまるで異なっていた、と言うことだろうか。
人間は、時に遠くに浮かぶちっちゃな「惑星」すら擬人化して想いを寄せる、奇特な生物なのである。脳科学から言えば、天文学者らより、一般市民の方が、ずっと複雑でおもしろいように思えるが、どうだろう。

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