安倍晋三首相の所信表明演説。
おおむね、自分の意見を述べていたと思えるが、全体的な構想を挙げることが中心だったため、個々の問題の具体性とか、何か特定の目標といったものはなかったので、郵政などをやり玉に挙げて構造改革を訴えた小泉前首相と比べると、アピール度が弱かった。また、若い政治家というぎこちなさは、首相就任会見の時に続いて見え隠れしていたが、これは演出的なところもあるかも知れない。
ところで、マスコミは、安倍首相の演説の中のカタカナを取り上げている。
カタカナは、表音語なので、外来語をすんなりと取り込める便利な言語であるが、それ故に、何となく語感で納得させてしまう力があり、いまひとつ意味を理解出来てないことも多い。
ところが、識者、専門家ほど、このカタカナ語を使いたがる。いかにも専門的に思わせられる、あるいは自身がそう思ってかっこいい、と思うのだろう。
で、安倍首相の演説のカタカナ語をみる。
『
…誰もがチャレンジできる社会…』
「挑戦出来る」とも言えるけど、まあ、これくらいはいいか。
『
…デフレからの脱却…』
これは経済用語なのでやり玉に挙げる種類ではないだろう。
『
…北朝鮮のミサイル発射や、テロの頻発…』
北朝鮮の噴進兵器発射や、破壊的暴力行為の頻発……じゃあどうもね(笑)。
『
…イノベーションの力とオープンな姿勢により、日本経済に新たな活力を…』
ぬぬ! これはまさにカタカナ語だ。「技術革新の力と開かれた姿勢により」ということか。日本語でも通じるぞ。
『
…貢献するイノベーションの創造に向け……戦略指針「イノベーション25」を取りまとめ……自宅での仕事を可能にするテレワーク人口の倍増を……高速インターネット基盤を戦略的にフル活用し、…』
おお、カタカナ語連発。でもイノベーションはともかく、テレワークは日本語にしにくいなあ。「通信利用式在宅自由業務」なんだけど。インターネットは情報通信網が意味的には近いかな。
『
…アニメや音楽などのコンテンツ…』
えーと、アニメはもはや日本語として世界に伝わってます(本当はアニメーションでアニメとは略さないからね)。コンテンツは、中味……かな?
『
…日本がアジアと世界の架け橋となる「アジア・ゲートウェイ構想」を…』
アジアはいいとして、ゲートウェイ構想は、まさに架け橋。「アジア架け橋構想」というよりは、逆にわかりやすいかも。難しいな。
『
…フリーターをピーク時の8割に減らすなど、女性や高齢者、ニートやフリーターの積極的な雇用を促進します…』
フリーターは日本式造語だから、意味で言うと「非正規雇用者」となる。ピークは最高時の、と言い換えられる。ニートは「Not in Education, Employment or Training」の略で「教育を受けず、職業訓練も受けてない人」と言う意味だけど、「怠け者」と言う意味で使われてる。この使い方は、外国ではあまり言わないらしい。つまり、
「…非正規雇用者を最高時の8割に減らすなど、女性や高齢者、
怠け者や非正規雇用者の積極的な雇用を促進します…」
となるわけだ(笑)。
『
…地場産品の発掘・ブランド化や、少子化対策への取組、外国企業の誘致などについて、その地方独自のプロジェクトを自ら考え…』
ブランドは、商標と言った意味を持つが、日本では「特別なもの」「高価なもの」と言う意味の「象徴」として使われるから、このニュアンスをひと言で日本語訳にするのが難しい。プロジェクトは計画だが、「地方独自の計画を自ら考え」というと主張の強さは半減してしまう。
『
…債務残高の対GDP比を安定的に引き下げるため……2011年度に国と地方の基礎的な財政収支「プライマリー・バランス」を確実に黒字化します…』
GDPはGross Domestic Productの略語だがカタカナと同様の使い方をされている。
意味は「国内総生産」。日本語にしてもさほど違和感はないでしょう。プライマリー・バランスは、文章にあるとおり、債務に関する支出と収入を除いた「基礎的な財政収支」のこと。これも強調的にわざとカタカナ語を入れたものですね。
『
…メリハリの効いた配分を行い…』
メリハリとは、「減り(めり)=低い音」、「上り(かり)=高い音」という邦楽用語からきているので、日本語ですね。
『
…道州制の本格的な導入に向けた「道州制ビジョン」の策定など、行政全体の新たなグランドデザインを描いてまいります…』
道州制ビジョン、わかるんだけど、変な言葉だな。グランドデザインも、全体構想と言った意味でわかるんだけど、気取った感じはする。
『
…「人生のリスクに対するセーフティーネット」であります…』
さあ、カタカナ語が本領発揮してきたぞ。意味はわかるけど、翻訳調に説明しにくくなってきた。リスクは、今後に起こりうる損失、危険性などを意味し、セーフティーネットは安全装置、安全システムと言った意味。つまり「人生の補完機構」という意味になる。
『
…自動車燃料にバイオエタノールを利用するなど、バイオマスの利用を加速化します…』
バイオエタノールは生物から作られる燃料(アルコール)の一種。バイオマスは「生物製造資源」のこと。生物燃料と生物資源です。
『
…政治の強力なリーダーシップにより…』
リーダーシップは日本語にしにくい単語の一つだ。指導者の資質、指導者の素質、指導者の力、といったことになる。
『
…総理官邸とホワイトハウスが…』
「白い家」と訳してもしょうがないので(笑)、このままで。
『
…メールマガジンやタウンミーティングの充実に加え、国民に対する説明責任を十分に果たすため、新たに政府インターネットテレビを通じて、自らの考えを直接語りかける「ライブ・トーク官邸」を始めます…』
メルマガは日本語にしにくい。電子書簡雑誌というわけにもいかないか。タウンミーティングは、地域市民対話議会と言った意味になる。インターネットテレビは飛ばして、ライブ・トーク官邸。中継通話官邸? 「目安箱官邸」の方がいいかも。
『
…新しい日本の「カントリー・アイデンティティー」、…』
アイデンティティは自己同一性などと訳されるけど、要するに「自分らしさ」「自己の確立」なので、日本らしさ、と言えばいい。
カタカナ語が多い、と言う批判もわかるけど、一個一個見てみると、これはこれで結構難しいものである。安直に批判するより、日本語をまず学び、作っていくことが大事かもしれません。何しろ、批判している人の文章にもカタカナ語が溢れてますんで。便利だもんね、カタカナ語。

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