日本経団連は、2015年までの日本の将来像を示す政策提言「希望の国、日本」を1日付で発表した。
この中で、財政再建に向けた政府目標である「11年度の基礎的財政収支黒字化」を達成するため、11年度までに消費税率を2%程度引き上げる必要性を指摘。さらにその後、消費税率換算で3%分に相当する増税か歳出削減を行う必要があるとしている。一方で、国際競争力確保のために、国・地方税を合わせた法人実効税率を10%引き下げるよう求めた。これによって、15年まで名目で年平均3.3%、実質で同2.2%の経済成長を達成できると試算している。
提言は、国と地方を合わせた債務残高が767兆円(対GDP比150・2%)という異常な事態に対しての懸念として示されたものだ。
国債の大半は、国内の公的金融機関が引き受けているため、異常な数値にもかかわらず、国家の存亡に関わるほどにはなってないが、他の先進諸国と比べてもちょっと類例がないほど巨額である。
この財政再建案には、歳出削減についての言及もあるものの、基本的には増税を視野に据えたもので、現政府・与党の主要な政治家の考えと一致している(増税に反対している人も一部いる)。
税収を増やすことで基礎的財政収支(プライマリーバランス・債務をのぞいた収支)を健全化し、少子化社会でも経済成長を可能とするための構想だ。
しかし、この提言。
あくまでも、企業のトップからみた考えである。
消費税を増税することが基本にあるが、かつて消費税が5%になったときに起こった大規模な消費落ち込みの問題を考慮していない。
消費の落ち込みは企業の利益にも直接影響し、ひいては景気、法人税など国家経済を左右するほど大きな問題につながるのだが、経営者として手腕を発揮した経団連御手洗冨士夫会長も、そのあたりはわかってるのかどうなのか不思議な感じがする。
もうただ、財政の数値を並べて(それこそエクセルのシートを眺めるように)、それをどう上げ下げするかだけに目がいって、経済の実態が何かと言うことを失念しているような気がしてならない。
日本の消費税は、いわゆる「逆進税」の一種で、税の公平という原則からはずれている。
つまり、あらゆる物品に一律に税がかかっているため、一見すると公平のように見えるが、収入の多い少ないに関係なく負担するため、収入が低いほど収入に比して負担は重くなるように出来ている。
欧米は消費税率が高い。いずれも10%〜25%ほどで、だから「欧米に比べて日本は税率が安い」という政治家の論調が出てくるわけだが、これはおかしな話で、欧米の消費税は、一律ではない。一般品の税率を安くし、贅沢品の税率を高くする累進税なのである(もしくは、医療費、教育費をタダにする)。
もうひとつ、今の日本の制度では、輸出企業は、消費税の還付金(輸出戻し税)が得られるため、消費税率が上がるとその分を負担しているという理屈になり、高くなるほど還付金が増加する(本来は輸出品だからすべて消費税は非課税なはずだけど、輸出企業にだけ輸出した分を「税負担分」として還付される。同じ商品の製造下請けには還付されない(輸出企業が商品を下請けから仕入れたときに下請けに消費税分を払っているから、と言う理屈らしい……??))。
これに法人税の引き下げを加えているのだから、どうみても企業本位の提言である。
それでも、企業が雇用者に相応の還元を行うのなら、まだしも、と言えなくもないが、企業の大半は今年の春闘で、賃上げを検討しない。それどころか、賃金で正社員の6割程度が平均である非正規社員(契約・派遣・パート)らの数は月単位で増加し、1600万人を突破していると言われる。企業が正規社員を減らし、非正規社員を増やして人件費を浮かしているのだ。
しかも、この中には正社員でありながら派遣扱いされている受託業務社員・出向社員は含まれていないとみられる。現場では派遣より待遇が悪いこともあり、派遣法、職業安定法に違反している事例が多い。
経済諮問会議のメンバーは、企業減税論者ばかりなので、安倍内閣の御用学者によって企業減税は推進されることになる。
再チャレンジできるのは、政治家と大手企業経営者だけ、と言う政策ともぴったり合致する。
法制度からみても、政策からみても、低所得者、フリーター、ニート、高齢者、障害者、母子家庭、いじめられている子供などは、救う対象とならないらしい。
これが、「希望の国」であり「美しい国」というわけ。
「愛国心」を義務化されつつありますが、自然や伝統文化は別にして、こんな政治家と経営者のいる国に愛国心がわくと思えないのですが、どうでしょうか。

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