兵庫県尼崎市のJR福知山線で快速電車が脱線しマンションに激突、107人が死亡、562人が負傷した大事故から丸2年。
朝早くから花束を持ってくる人が相次ぎ、電車は現場を通るとき警笛を鳴らして、冥福を祈った。
事故後の補償交渉は全く進んでいないと言われ、安全装置の設置の遅れの指摘や、幹部らの責任回避、また、事故原因の調査委員会では、JR西日本側が、指摘された問題にことごとく反論するなど、体質の改善が出来たとはとうてい思えないような状況が続いている。
今日も福知山線でオーバーランが起こったほか、この2年間で、この種の前兆的トラブルが相次いでいる。
過去に鉄道の重大事故はいくつもあるが、その中には重大事故の前に、同じような種類の小規模の事故が起こっている。これをインシデントという。潜在的事故、と言う意味だ。
三河島事故や、鶴見三重衝突などの脱線多重衝突事故は、同じような脱線が起こっているし、「きたぐに」トンネル火災事故もその前にそっくりな事故があって機関士の判断で事なきを得たが、その教訓を生かせなかった。
営団日比谷線カーブ脱線衝突事故も、東急東横線脱線事故という似たような事故がその前に起こっている。追突事故などはほとんど数年おきに起こっている。
マーケティング理論や労働災害などではハインリッヒの法則というのがある。1:29:300の法則とも言い、一つの重大事故の前には、軽傷を負うような同様の事故が29件あり、その前にはひやっとするような出来事が300件ある、と言う統計学的なデータから得た教訓である。
つまり、ささやかな出来事を改善しなければ、やがて重大な結果を引き起こすと言うことだ。
福知山線事故の場合、オーバーランや速度超過はしばしばあったと言われ、その前提にはイジメのような厳罰主義の方針と無謀な運行時刻設定の問題があった。つまり、過酷な罰則があるから、時刻を守るのに無謀な運転をしたという仕組みだ。通勤ラッシュによる遅延は物理的なものでどうしようもないので、あせって速度を超過して運行する。オーバーランが起こるようになる。オーバーランこそ、ハインリッヒの300であり、衝突事故が1なのだ。
つまり、JR西日本は、悲惨な結末を迎えた福知山線の事故を教訓とせず、さらなるハインリッヒの法則を生もうとしているのかも知れない。
また、設備的にはずっとマシなJR東日本や各地の大手私鉄でも、その危険性は十分にある。
そして、大きな企業に見られがちな、典型的な体質もある。社員の地位や立場による差別的な扱い。社員同士の意思疎通の欠如。状況改善の異常な遅さ。管理職の責任回避。陰湿なイジメ。
社員同士が助け合わなければ会社が傾いてしまう中小企業と違い、大企業社員の、プライドの高さと寄らば大樹の体質は簡単にはぬぐえない。危機感が欠如している。それは重大事故を招く要素の一つだ。事故に限らず、ビジネス上の重大なミスを引き起こす原因ともなる。
どんなに技術が進歩しても、それを運用するのは、人間だと言うこと。これこそが最大の忘れてはならない教訓である。

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