地球温暖化は、2005年頃まではさほど注目されていなかった。
しかし、植物や昆虫の生息範囲が大きく変化し、北極の氷が半減したり、いままで起こるはずの無かった場所で、熱波や干魃、大洪水などの自然災害が起こったりして、にわかに注目を浴びるようになった。
それでもまだ2007年前半くらいまでは、ネット上でも、温暖化を否定する意見が飛び交ったり、人類の活動とは関係ない、と言う意見も多く見られ、科学的ではない、騒ぎすぎだ、と言う発言も結構あった。
だが、さすがに、去年後半当たりからは、そう言う意見はなりを潜めるようになった。
一つには、事態の深刻さを伝える情報が多く流れるようになったこと、実際の気温や温暖化ガスの濃度の測定結果で、温暖化が加速していることが明らかになったこと、それまで温暖化と人類との関わりを否定し続けていたアメリカが、認めだしたことなどが上げられるだろう。
確かに、理屈抜きに大騒ぎしている向きもあり、「エコロジー」「地球に優しい」などという言葉が安易に氾濫して、正確さを欠いているところもあるのは事実。だが、それらを飛び越して環境の悪化が加速しているのが明らかになってきており、むしろその方が深刻である。
科学者の予想も、これまでは100年後の地球はどうとかこうとかという内容だったのが、最近では50年未満にまで近づき、一部ではわずか10年後の予測を立て、ずっと状況が悪化していることを示した説も発表されている。
科学者や我々が想像するより速く、破綻が近づいている可能性は充分ある。
それはアメリカが態度を変え始めたのにもわかるように、各国がこの問題に熱心に取り組むようになったのでも言える。去年までは温暖化会議など、ほとんど無かったのに、今年はすでに何度も大きな会議を行い、方針を話し合っている状況だ。
その結果、日本はこれまで、EUほどではないにせよ、環境先進国だったのが、いまや後進国へと下がってしまっている。
その起死回生策として日本がブチ上げているのが、分野別規制案。産業ごとに温暖化ガスの排出規制枠を設けて、無理なく確実にやろうという考え方。
それに対し欧米が推進しているのが、排出量取引。これはあらかじめ、国が全分野にまたがって排出量の上限を決めた上で、その目標を大きく超えた企業は、超えていない企業に、超えた分を数値売買出来るというもの。一種の金融取引である。世界の大方の流れはこちらにあり、アメリカが方針を転換したのも、この流れに乗り遅れると、アメリカ企業が排出権取引市場で損をするという意見が米財界の中で強まったためである。
日本がこれに消極的なのは、産業の競争力を奪うのではないか、と言う財界の反発があるため。また、すでに対策を採ってきた企業は、規制で優遇されないため(規制を敷く以前の功績を評価しないので、これ以上対策を講じれないから売買も出来ない。対策を行っていない企業だからこそ、対策を講じたときの効果も大きくなると言う理屈なので)、まじめにやってきた企業ほど損をする傾向にある。
もうひとつ、市場で売買するのは、単純化すれば、努力した企業の分だけ温暖化ガスは減るから、努力が足りない企業に売っても、排出量の数値が企業間で移動しただけで同じこと、と言うことになるのだが(これはバイオエタノールと同様の感覚。バイオエタノールもその植物が育つときに温暖化ガスを吸収しているから燃やしても元に戻るだけ、と言う理屈になる)、果たして本当にそれで効果が上がってるのかわからない。地球全体でその都度計測しているわけではないのだから。
また市場であるから、価格が実際の価値(温暖化ガス削減量)を正確に反映しているとは限らない。需給によって変動する可能性もある。また時間空間で範囲をどこまで取るかによって、効果の判断基準が変わる。
たとえば日本の企業は、東南アジアなどで植樹しているが、植樹する前にわざわざ森林を伐採して、植樹した以降の分だけをエコ活動として宣伝しているところがあるという。しかも伐採分と植樹分が同等かどうかはわからない。
ある強力な温暖化ガスを減らした後、やや温暖化の傾向があるガスに置き換えたとしても、それを大量に使えば同じ事だ。
風力や太陽光発電も、発電のところだけ見ればエコロジーだが、その発電機を作る過程では大量のエネルギーを消費している。
一方で電気の使用量を発電時に発生する温暖化ガスに置き換えて計算しても、発電方法によって変わるから一概には言えない。
排出権取引は全く効果がないとは思わないが、あいまいな部分も多い。
といって、後ろ向きに産業別規制を提案したところで、根本的な解決には向かわないだろう。最初から規制の手を緩めようという動機が働いているのだから。
本当に人類の排出する温暖化ガスが影響して温暖化が加速しているのであれば、一番良い方法は、温暖化ガスの出るもの全てを撤廃するしかない。
車はすべて電気自動車に替え、発電所は全てガスの出ない方式に替え、企業の生産現場から家庭内の製品に至るあらゆるシステムをガスではなく電気に置き換え、その上で、発電所から順番に置き換えていけば、発電所の建設時だけは温暖化ガスを排出せざるを得ないが、あとはその電気で生産活動を担えるので、抑えることが可能になっていく。
ただし、たとえそこまで極端なことをやって温暖化ガス排出をほぼ止めたとしても、それが実際に地球全体で温暖化の加速を止める効果を上げるには、何年か何十年かは必要になるのだ。
つまり、いまの中途半端な対策では、いくらエコだの、地球に優しいだの、と言っても、温暖化の加速は止まらない。しかも節約だのエコロジーだので「良いことをしたような」気になっているようでは無理だ。
極端なまでの方針転換と、宇宙移住。この二本の柱で対策を進める以外、温暖化加速を止める方法はないだろう。荒唐無稽に思えるが、それしかない。地球環境を守るためには、人類の活動を抑えるか、全く違うエネルギー手段を構築するしかないのだから。
あるいは、最も速く止める方法は、大規模自然災害によって人類の大半が死滅し、その活動が大幅に失われたときかも知れない。
エコロジーも、自然から見れば人間のエゴロジーと言えるだろうし。

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