中国雲南省昆明市で路線バスが相次いで爆発し、二人が死亡、十数人が重軽傷を負った。
爆発の原因ははっきりわかってないが、座席下に仕掛けられていた時限爆弾と見られることから、爆弾テロという見方が強い。
つい先日も、警察署が爆破されるテロがあるなど、中国は現在、内陸部を中心に事件が頻発している。
オリンピックを前に、中国当局はピリピリしているようで、新彊ウィグルでは反政府武装組織のメンバーを相次いで逮捕したと発表している。
しかし、実は中国で起こっている多くのテロ事件は、独立闘争を求めている勢力の仕業ではなく、それぞれの地域の住民によって引き起こされている。
テロだけでなく、住民暴動まで含めると、相当な数に上ると考えられる。
当局は、小規模独立勢力などよりも、むしろ漢民族の人民による反乱を恐れている。事件が起こっても情報をひた隠しにし、首謀者を処罰し、他に波及して同様の事件が起こることを極力避けようとしている。
だが、なぜこれほどまでに事件が起こるのか。
それは、地域住民の不満が増大していることだ。
土地の強制収容、汚染物質の垂れ流しによる環境汚染、後先考えないめちゃくちゃな開発、手抜き工事。
それらの多くは、業者と地域政府幹部との間の癒着にある。市や郷といった自治体から、上は省に至るまで、それらの政府幹部、共産党幹部に、開発業者が賄賂を送る習慣は、もはや当然のようになっている。
そして、業者による住民立ち退き、開発、汚染、手抜き工事による建造物の崩壊や、先般の大地震の時の学校崩壊などによって、住民に犠牲が強いられる。中には、腐敗による贅沢三昧でモラルも何もなくなったそう言う幹部の子息による暴力やレイプと言った犯罪なども起こっているという。
当然、住民は反発する。
しかし地方政府に訴えても、政府幹部は警察を動員して、そう言う住民を弾圧する。抗議した住民が時には警察官から、場合によっては、黒社会(中国マフィア)の構成員から、暴力を受ける。
怒りに満ちた住民は、暴動を起こし、行政機関の建物に火を放つ。
だが、弾圧を正当化するため、地域政府の幹部は、さらに上の省政府、中央政府幹部や共産党幹部に賄賂を送り、結果、暴動を起こした住民は国家反逆不穏分子として処罰されることになる。
そうなると当然、地下に潜ることになる。
抗議行動も、デモや暴動ではなく、要人暗殺や爆弾テロのような方向へと進むわけだ。それを煽る勢力も出てくるだろう。
中国の深刻なところは、内部の腐敗によってそれが起こっていると言うことで、今でこそ、オリンピックを国家事業として打ち上げて、国民をまとめようとしているが、それが終わったらどうするのだろうか。また、オリンピックによってナショナリズムも昂揚するから、余計に収拾がつかなくなる恐れもある。
もともと、中国の歴史上、官僚に賄賂を送る習慣は、普通に行われてきた。中央の朝廷の中の官に付くより、地方長官になる方を望むような話も伝わっている。その方が地域住民や商人から上がってくる賄賂によって生活が豊かになるからである。
また、官僚と一般民衆は、別である。
前漢中盤頃から、儒教が浸透し始めた中国では、その儒教が官僚組織と結びつき、後漢時代になると、中央官僚に、儒教的に良い行い(主に親孝行)をしていることをアピールして、中央官僚の推薦を受け、地方官になり、最終的には中央官庁のトップになることが、地域出身者の目標になった。
中国の正史と呼ばれる公式歴史書には、そんな話ばっかりが山のように載っている。
中央官僚は、推薦制度を利用して派閥を作り、中央の高官になる一方、莫大な資産を持って一族を率い地域に割拠し、豪族化するようになる。賄賂を送る習慣も根付き、子息を代々官界に送る貴族・士大夫層と、戦乱時代を除いて出世する機会を与えられない庶民・単家層に別れてしまった(単家とは、大勢の一族郎党を養うことが出来ないため、親兄弟程度の「一家」しか構成出来ない庶民のことと考えられる。三国志演義に出てくる徐庶の別名が「単福」となっているのは、史書に徐庶のことを「単家の福(つまり単家出身の徐福)」と記されているのを単姓と作者が勘違いしたためといわれている。史書にわざわざ単家と載っているのは、単家出身の徐庶が後に魏の高官になったこと自体が珍しかったからである)。
この出身別官僚制度は、後漢末・三国時代初頭には一時的に壊れ、実力本位になりかけたこともあったが、魏晋南北朝時代にはさらに階級化し、同時に官僚システムを定めた九品官人法が出来、やがてこれが、科挙制度に発展する。官僚は絶対的な力を持つようになり、それに賄賂を送ってすり寄る仕組みもそのまま維持された。
辛亥革命で王朝が倒れた後も、官僚システムは残り、特に地方では、賄賂によって結びつく汚職体質は、悪くなる一方だった。国民党政権が崩壊し、共産党になったのも、元はと言えば、この汚職体質を民衆が嫌ったからである。
しかし今や、その共産党そのものが、汚職体質のかたまりになってしまった。二千年に及ぶ官界の歴史は、そう簡単に変わるものではないらしい。
中国では官僚システムと同時に、もう一つ、伝統的なシステムが存在する。
それが「革命」だ。
天の命をあらためる、という意味の革命は、天から、地上支配の代理人として決められた(と言う形にしている)皇帝とその子孫を、腐敗や疲弊などを理由に、その役目にそぐわない、と判断して、ひっくり返すことを差す。英語のレボリューションと、厳密には意味が異なる。
最終的に王朝を倒した革命の指導者が、次の「天から命を受けた」地上の支配者として、皇帝になるのだ。
そして、この革命の火付け役になるのが、上記でいうところの貴族層には属さない一般民衆だ。
歴史を見ると、主なものでも、秦の陳勝・呉広の乱、後漢末の黄巾の乱、唐末の黄巣の乱、元末の紅巾の乱、清後期の太平天国の乱など、国家を衰退させて、革命や王朝交替に至る原因を作った農民反乱は、いくつもある。
背景には多く宗教がうごめくものの、元々は時の王朝、政治体制の腐敗に原因があり、民衆の不満が抑えられなくなったことにある。
今の共産党体制の大本である辛亥革命だって、同様の現象だ。
民衆の政治変革の機会である民主選挙制度は、未だに、中国には定着していない。中途半端な一党体制が、事実上の王朝と化している。
広大な土地と人民を支配する国では、伝統的支配方法の方がやりやすいのかも知れない。
だが同時に、伝統的な、民衆による武力政変の可能性も残されてきた。
官僚は腐敗し、ほんの目先のことにしか頭が働かない。このままでは民衆に恨まれて、殺されるかも知れない、等という発想が抜けている。あるいは危機感を持っても、目先の危機感であって、力で押さえ込めばなんとかなるという程度だ。
いくらか目端の利く、中央の官僚・政治家達は、この状況に危機感を持っているだろう。だが、いくら全人代などで腐敗撲滅を主張しても、地方からの出席者が表向き拍手でこれを承認しつつ、裏で汚職をやめるわけではない。
それどころか、時には中央政府までが、不平不満を持つ住民を弾圧して安易な安定化を図ろうとする。
四川大地震の被災者までが、学校倒壊の原因を追及しようとして、国家から不穏分子のレッテルを貼られている状況だ。こんなめちゃくちゃをやっていれば、いずれ、歴代の農民反乱に並ぶ内乱が起こってもおかしくない。
問題は、歴代の反乱の時は、まだその影響は、中国国内にとどまっていたが、今は世界中の政治経済が影響を受ける、と言うことだ。
そのときに備えて、いろいろ考えておくことがあるのではないか。

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