民主党が、普天間基地の対応で混乱している。
北沢防衛相は、元々は県外移設などをにらんでいたようだが、沖縄視察後に、自民党時代にまとまったキャンプシュワブ移転案を支持する発言をした。
シュワブ移転案は、辺野古にあるキャンプシュワブの海岸から沖合にかけてを埋め立て、V字型の2本の滑走路を造り、普天間のヘリ部隊の大部分をそこに移転、残りの海兵隊の一部をグアムに、給油機などの航空機を山口県の岩国基地へ移転するというもの。また、滑走路が現状より短くなることなどもふまえて、垂直離着陸が可能なティルトローター機のオスプレイの配備をするという話もある。
民主党はかねてから、この案に反対してきた。地元の負担は変わらない、ということでの反対だったわけだが、では具体的な対案があるのか、というと実はきちんとまとまっていなかった。自民党政権の出した案だから反対したとも言える。
民主党は、大きく2案を持っていたようだ。
ひとつはグアムを中心に国外へ移設するというもの。
もうひとつが、九州の自衛隊基地などに移設する県外移設案。
社民党もこれを支持している。
沖縄の負担を減らす、という意味では、かなり理想的な案だが、国外はともかく、県外移設案となると、今度は移設先で同じ負担を強いるのだから、社民党がこれを支持した理由がよくわからない。沖縄でなければ、他の住民が犠牲になってもいいというのであろうか。
問題は、シュワブ代替案が、SACO(沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会)以来の日米両政府による長い長い話し合いの結果まとまった案で、アメリカもだいぶ譲歩していることから、アメリカはこの方針しかないとしていること。
アメリカ政府は、鳩山政権が、アメリカを軽視しているのではないか、ということを懸念している。そのため、アメリカの態度はかなり硬化しており、オバマ大統領の訪日日程も短縮され、本来ならありそうな被爆地訪問もない。国防長官などの訪日に於ける行事も中止されている。
民主党は、このアメリカの態度の硬化に、内心、かなり動揺しているのではないか。
北沢大臣の発言はその現れともとれる。
岡田外相は、現時点では、国外・県外移設は難しい、との認識にあるが、北沢防衛相とは異なり、シュワブ移設案ではなく、嘉手納統合案を出している。
本人は、滑走路などを共有できるのだから、とかなり「良い案」を思いついたと言わんばかりだが、現実的には難しい。嘉手納統合案は、これまでの普天間移設の話し合いの中でもでた案の一つであり、部隊の運用の問題から採用されなかったものだ。普天間と嘉手納では、軍が異なる上に、使用機材も異なり、目的の異なる部隊運用で施設使用が重なってしまう。宿舎などの問題もあることから、嘉手納に普天間の部隊を置くのは困難というのは当然だろう。仮にそうするにしても、部隊編成や運用プログラムを見直さなければならなくなるので、かなり時間をかけることになる。
地元の負担をすぐに軽減するため、というのであれば、むしろ嘉手納統合案は厳しい。
安易に、嘉手納には大きな滑走路があるから、そこに置けばいいじゃん、的な感覚で出した案だとしたら、アメリカ政府は呆れて、交渉すらまともに出来ないのではないか。
また、言うまでもなく、嘉手納町など地元は反対している。
反対があまりに多いので、岡田外相は、嘉手納統合案を期限付き、という風に替えてきているが、運用上の問題がある以上、同じ事だと思われる。
この他に地元の国会議員などが出している案として硫黄島移転案がある。県外案の一つだ。硫黄島は現在、自衛隊が基地を置き、米海軍の空母艦載機部隊などが時々使用している。絶海の孤島で、しかも住民がいないので、騒音問題はほとんど無い。
神奈川県厚木基地の騒音問題でしばしば取り上げられるのが、硫黄島での訓練である。
おそらくその辺りから出た案だろう。
ただこれも、厚木の騒音問題ですら、必ずしも硫黄島を使わない上に、地理的な意味で重要視されている沖縄に対し、より距離が遠くなる硫黄島では、アメリカ側が消極的になると思われる。
社民党のように、交渉にもならないような非現実的な主張を繰り返しても、全く解決にはならないが、民主党も、具体的な考えがあって、これまで反対してきたわけではなさそうなので、現実に直面して困っていると言うところなのだろう。民主党の政策のほとんどが、現実に直面して問題になっている。
政権の難しさをやっとわかってきたところだろうが、小沢一郎、社民党、国民新党、という融通の利かない勢力を内部に抱えているため、上手く行くか怪しい。
とはいえ、普天間基地は一刻も早く片付けるべき問題。
事件や事故も起こっているので、ありとあらゆる手を尽くすべきだ。
かつて出た移設案でボツになったものの中に、メガフロート工法による「海に浮かぶ基地」を本島の沿岸沖合に作るというのがあった。
メガフロートは、巨大な金属などで出来たブロック構造の板をつないで土地を作る技術で、剛構造だが海に浮かぶ。埋め立て無しだから環境破壊も相当抑えられる。かなりの大きさのものを作れるし、ヘリ部隊・オスプレイ・中型輸送機レベルなら滑走路の構造もより簡単に済む。埋め立てもなく、資材をつなげるのが基本なので、工期も非常に短い。さらに移動が可能だから他の基地との戦術・戦略上の都合に合わせられる上、必要なくなれば解体すればいいわけで、基地の恒久化にはならない。転用することだって可能だ。海の上なら騒音問題も減る。
実際に東京湾で長さ1000mの小型飛行場建設実験をやったこともある。羽田空港の拡張工事の案としても検討された(これは桟橋方式になったが)。
アメリカ側も、メリットが多いことや、技術の面で、興味を示していたアイデアであった。
問題がでるとすれば、細かい技術面と漁業補償の問題だろう。
しかし技術は当時よりもかなり進歩してきているし、技術向上にもつながる。
この案を見直してみるのもいいのではないか。

2