知的財産権とは、発明品と技術的方法に関する特許権、日用的な発明品に関する実用新案権、著作物に関する著作権、商品や業務の名称や表記に関する商標権、デザインに関する意匠権、農産物に関する種苗権と、それらに関わってくる不正競争防止法や民法などを絡めて、無形財産の知的資源を守る権利のことだ。
日本は明治末頃から知的財産権に関しての法整備が進められてきたものの、社会一般的にはやや鈍いところがあって、取り組みが遅れ、企業でもこの問題に対する認識が甘いところが今でも多い。不正に使用していたり、逆に不正に利用されるような状態になっていたりしている。
しかし、近年、この方面の重要性が注目されてきた。特許の少なさで苦労したことや、著作物であるソフトウェアの発達やネットでの著作権違反に関する問題が急増したこと、中国で勝手に日本の地名や商品名、特産物の名称が商標として登録されて商品を売ることが難しくなったりするニュースも増えて、身近になってきたからだ。
今年リメイクされて大ヒットした『宇宙戦艦ヤマト2199』の元ネタである『宇宙戦艦ヤマト』は、かなり長期にわたって、西崎義展と松本零士の間で、著作権と著作者人格権が争われた。プロデューサーとしてヤマトを始め様々なアニメ作品を企画した西崎義展に対し、旧作ヤマトで監督となり、設定やデザインに関わった松本零士が原作者としての地位を訴え、逆に訴え返されるという事態になった。企業も絡んで裁判は長期になったが、最終的に両者は和解にいたり、原作者は西崎義展となり、財産権の著作権と、原作者の権利を守る人格権もこれで確定した。今回のリメイクでは、すでに没しているものの、生前の人格権に準じて、西崎義展の名前が原作者として表記されている。
旧作ヤマトは放映に至るまでに多くの人が関わっており、原作小説からアニメ化するような翻案作品とは違っていたこともあってか、権利関係があいまいだったようだ。アニメ興隆期の手探りでアイデアを出し合って作った時代に、そういう感覚は乏しかっただろうし、放映で一旦打ち切りに遭いながら、その後、予想以上のヒットとなって、逆に権利関係がややこしくなったという流れもあると思われる。今回のリメイクの話がなかなか進まなかったのもそこにあると言われているが、結果的には、今年というタイミングは世代的、社会的な流れとして、うまく合っていたかもしれない。
同じく今年ヒットした「あまちゃん」の名台詞(?)「じぇじぇじぇ」はすでに、地元の和菓子業者が商標登録を申請している。また、「半沢直樹」の「倍返し」もサンヨー食品が商標登録の申請を出していることが判明した。
商標は出願するとすぐにその内容が公報で公開されるため、一定期間を経る特許などと違い、調べればすぐに分かる。
また、商標はそれを使用する対象の商品・役務を合わせて登録の際に指定しなければならない。和菓子店の方はまだしも、サンヨー食品の方は多数の商品が指定されているため、もし認められると、その指定商品のジャンルでは「倍返し」の使用が難しくなり、影響がそこそこ大きい。もちろん、異議申立や無効を求めることも可能だし、商標には先願主義の他に先使用主義があるため、出願より前に、すでに世間で認知されている場合は、たとえ他者に登録されても、直ちに使用できなくなるわけではない。倍返しの名が付いた商品は、すでにテレビ局が出していて、知られているから、出願が認められると、そのあたりが侵害に該当するかどうかとなりそうだ。
それに、あまりにも世間一般に広まっている場合は、そもそも登録が認められないおそれもある。知的財産権は、権利者を保護する一方で、過剰な保護によって経済活動・文化活動の発展を阻害するような場合がないように戒めている。
今回のように、出願した企業や個人が努力してそれを作り上げたわけでないものは、必ずしもすんなりとは認められない。
それ以上に大きいのは、出願登録することで権利を確保することばかりに目が行ってしまうと、思わぬ問題に直面するということ。
知的財産権は、著作者人格権を除けば、経済活動が主目的になる。せっかくの努力が利益面で無駄にならないよう「利益を得る権利」を認めている。
ところが、今回のような、流行に便乗した商標権申請の場合、法制度的には適法でも、世間一般の反発を買う場合が多い。他人の努力の上にあぐらをかいて利益を独占しようとしている、というイメージが出来てしまう。ネットで流行っているもの(キャラやAAなど)を申請してしまうと、ネット民から電凸のような直接攻撃を受けることもある。
結果的に、商品を売る企業としては、ひどくマイナスイメージになってしまい、しないほうが良かった、ということにもなりかねない。
また流行しているからといって、元ネタとあまり関係のない商品や役務にその名前を付けても、効果が無い場合もある。むしろわざとらしさが強調されて、余計イメージを悪くすることもある。流行とのタイミングがずれて、「今頃?」と失笑を買う、ということもありうる。逆にうまい具合に流行とマッチしたり、宣伝の仕方で思わぬ効果を上げる場合もあるから、権利を早く確保しなければ、と企業関係者は思うのだろう。今回の場合だと、主役の堺雅人さんをCMに起用して、あの感じで商品の宣伝をさせる、位のことは、すでに考えているはず。敵対した大和田常務の香川照之さんを出すという手もある。
ただ、今回はすでに流行の終わりに近づいてきている。半沢直樹の方は進行中の原作があり、ドラマも続編が出るだろうけど、その間に商品を展開して、果たして企業へのマイナスイメージを相殺して利益を生むだけの登録効果があるかどうかということになってくる。
特許は商標同様、出願すると必ずその内容が公開されるため、特殊な発明技術の場合、その秘密性を守るために、あえて特許を取得しない、という戦略を立てる場合もある。
権利を取るだけが正しい選択な訳ではない。
知的財産権の重要性は、国家も認めている。そのため、知的財産管理技能士のように、企業内で専門に知財を担当する人の能力を保証する国家資格もあり、そこでは単に知識だけでなく、経営面でのプラスマイナスを理解しているかを問うている。しかし、まだまだ経営者や管理職には、知的財産の意味を理解していない人が多いのかもしれない。

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