商船三井の大型鉱石運搬船が中国当局に差し押さえられた事件。
中国の船会社が当時の日本の船会社に貸した船舶(戦時中沈没)に対し、保証を求めて訴えたもので、海事法院が日本側の抗告を棄却したため賠償が結審し、当時借りた企業を吸収した商船三井の船が差し押さえられた。
中国側は日本政府の批判に対して、日中平和友好条約は遵守していると声明を出し、今回の件はあくまで民間の紛争事案だと強調した。
条約では中国側が戦争賠償は求めないという毛沢東と周恩来の意向を明記しており、遵守するというのは、国家賠償は請求しないということを指す。
しかし今回のように、昨今、中国では民間賠償という形で相次いで日本に対し戦争賠償を求める訴えが出てきており、それを裁判所が受理している。中国は三権分立ではないため、裁判所(法院)は政府の意向に従う。つまり中国共産党政府が賠償を求めているのと同じ。
官製デモや官製反日暴動と同様のやり口だ。
だが、今回も暴動の時のように、日本企業を警戒させ、貿易や投資を鈍らせることになりかねず、結果、損害を被るのは中国企業ではないのか。
経済は自由化しつつあると言っても、実態は権力機構に結びついており、腐敗も深刻だ。
中国は、日本を叩いて国内の不満をそらせようとやっきだが、この情報化時代、それは見え透いている。市民に損害が生じ、不満が高まれば、矛先はいずれ中国政府に跳ね返ってくる。
中国は何しろ伝統的なまでに民衆反乱で王朝が倒れる歴史を繰り返してきた。
それはその長い歴史で、常に、権力側に位置する皇帝や軍閥、あるいは士大夫層、官僚層と、民衆とが乖離していたからだ。九品官人法や科挙制度も実態は特定階層を維持するシステムだったし、寒門、寒士、単家のように、本来、権力側には付けない庶民出身者が、たまたま権力者の意向で取り立てられたときなどにそのことを強調する単語が史書にはしばしば出てくる(つまりそれだけ庶民は庶民のまま)。
今の共産党政府幹部も、実態は太子党や共青団の出身者で占められており、民衆の入る隙間はなく、乖離した状態にある。
にもかかわらず、その実態や、内外の情勢は民衆に伝わっている。
内の不満を外に向けて、さらに内の不満をため続ければ、いずれ収拾の付かない事態になるだろう。習近平体制になってから、情報操作や締め付けが一層厳しくなっている。近未来から振り返れば、これは政権末期の状況だった、と指摘されるかもしれない。

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