北朝鮮の首都、平壌の平川区で建設中だった23階建てのマンションが崩壊。多数の死傷者が出ているというニュースが流れた。手抜き工事だったといい、未完成だったがすでに入居が始まっており、92世帯が住んでいたともいう。
いつもならこういう事件は内外からの批判を警戒してひた隠しにするのが北朝鮮。国家、政府がキム一族そのものに直結しているためだ。
しかし今回は、事件を公表し、金正恩第一書記がすぐに支持して大臣が説明と謝罪を行ったと報道された。異例なことである。
もっとも、理屈を考えると当たり前かもしれない。
韓国で旅客船の沈没事故、地下鉄衝突事故、オフィスビル傾斜事件などが相次いで起き、韓国政府がそれらにうまく対応できないことが明らかになって、市民の批判を浴び、世界中から呆れられている中、北朝鮮としては政府が誠意に対応していることを対外的にアピールしていると思われる。
また、平壌の同地区は中心に近く、政府関係者や政府が重要視する「出身成分」の市民らの住む地区とみられるから、政府に対する反発を招かないよう早めに対応したのだろう。
さらに誠意ある対応というのを金第一書記が指示したということで、優れた指導者という宣伝を国民に出来る。すなわち事件を逆手に取って政権安定につなげようという意図が感じられる。おそらく誰かを事件の責任者にして処刑でもするのではないか。
北朝鮮では金王朝とも言える政権を賞賛するために、巨大な建造物を相次いで建設している。主体思想塔や凱旋門、金日成と金正日の巨大な銅像という公的なものや、一時期放棄されて廃墟と化していたが最近整備された巨大な柳京ホテルなどだ。
そして市街地にはまさに箱物的な似たようなデザインのビルが林立している。実際どうなのか知らないが、外観だけとか、人は住んでいない、プロパガンダ用のセットのようなビル群だと言われてきた。人が住んでいるとしても、立派で豊かな計画都市というイメージで設計された街なのは間違いない。しかし自由競争が働かないこともあり、面白みが全くない。
これらはソ連のスターリン時代に盛んに行われた、巨大で剛構造なスターリン主義的建造物に似ている。東欧にも似たようなビルが多い。さらにたどればナチスドイツのベルリン・ゲルマニア計画にも類似している。
国家社会主義や共産主義は、政府を主体とする全体主義。指導者と党と官僚が人民のために政治を行っていることを示さなければならない。もちろん、社会主義は経済思想でもあるから、華美な贅沢は否定される。一方で指導者の趣味も反映されてくる。平壌の巨大建築物はまさにそういうところが見え隠れしている。
そしてモノで指導者を賞賛する手法は、忠誠心の高い国民に指導者から不動産や車両などが贈られる、という、プレゼント政治にも現れる。安直な方法だが、北朝鮮などはそのために国家予算のかなりの部分をつぎ込むという。平壌の高層マンションも多くはそういうものらしい。去年、突如解任され処刑された張成沢は、この予算を握ろうとしていたために、指導者の出すプレゼント政治に大きな障害となり殺されたという説もあるくらいだ。
韓国や北朝鮮で相次ぐこの種の事件・事故を朝鮮人だから、と嘲笑する向きもネットなどで見られるが、他人ごとではない。
日本でも大手デベロッパーやゼネコンが計画した高層マンションで配管などの手抜き工事や設計ミスが完成に近い段階で発覚し、入居が出来ず、解体して一から作り直すという事件も連続して起こっている。
人間がミスを犯すのはある程度やむを得ないが、それを隠そうとする体質は、国や人種には関係なく、社会性動物としての人間の本能だ。そして自分の責任を逃れるために他人の責任追求に汲々とするのも人間の特徴。ただ、北朝鮮のような国では、指導者自らその愚を犯す、というところが国民の不幸であり、犠牲者の質と規模も大きくなる。こういうことが繰り返し起これば、小さな亀裂が一気に拡大するように国家も崩壊するだろう。民族主義、ナショナリズムが強まっている韓国も同様だ。
日本が良いのは、そういう意味での全体主義的傾向が今のところ無いということだ。日本では何かしらの社会的流れが起こると、必ずその反対のことを主張し、今度はそっちにも流れが起きるという特徴が見られる。国民一丸となって大事業を行うのには不向きだが、失敗して国家崩壊ということもなかなか起こりにくい。

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