沖縄県知事選挙で前の那覇市長の翁長氏が当選した。
普天間基地の名護市辺野古への移設に反対した候補者の一人。前は自民党の沖縄県連にもいたので、保守分裂が大きく響いたとも言える。
今後は工事をめぐる認可などで影響が出て工期が延び、最終的には辺野古基地建設ができなくなる、というような流れに、政府が訴えを起こして工事を進めようとする対立の構図になりそう。
ただこの沖縄の基地問題は、非常に大まかな部分で論議されているところがある。
移設を目指す側は、大きく、在琉米軍の戦力がもたらす安全保障の観点、都市の中央にある普天間基地の事件や事故の危険性、経済問題を前提としているだろう。経済問題は宜野湾市での場合、米兵が利用する飲食店などの効果は、歓楽街もある沖縄市などに比べて低いと思う。その一方で基地地主の存在は大きい。また返還後の土地利用方法によっても変わる。立地は非常に良いので、民有地として戻すより公共施設への利用が考えられるのでは。そして辺野古のある名護市への経済効果も大きい。金で吊るのはヤナ感じもあるが、地元でも工事がもたらす経済効果を期待する向きもあり、地元の建設業などを参入させるよう、斡旋する組織もある。それだけ名護市を含む北部の経済状態が悪いわけだが。選挙などでも当選した反対派の市長の立場だけが報じられるが、実は投票で反対派100%にならず半数近くが容認派になっているのも無視はできない。
反対派の場合は、基地反対、というのは大きく出ているが、具体的にどの部分についてを問題視しているかが乏しい。考えられる問題点としては、やはり事故が一番だ。過去に何度も大きな軍用機による事故が起こっており、どういう犠牲が出るかわからない怖さもあるから、これは反対要素としては大きい。
また基地移設先での米兵による犯罪の増加も懸念される。特に女性子供への犯罪は深刻に受け止められる。
事件・事故とも、実は沖縄に限ったことではなく、本土の基地でも過去いくつも起こっているのだが、沖縄では今でもリスクが高い。
それ以外の要素としては、自然環境の破壊が大きい。基地以外の経済的発展が阻害されるといったところもいくらかある。
かつては、核兵器や化学兵器の貯蔵、ダイオキシンやPCBなどの基地で使用する物質の環境汚染、それに戦争になった時の基地への攻撃に巻き込まれる、といったこともあったが、現在、これらの要素はだいぶ低いと思う。
現在基地が移設されて起きそうな問題は、あまり具体的に論議されていないように見える。
航空機事故にしても、オスプレイの危険性ばかりが強調されたが、オスプレイを基準にすれば、従来のシースタリオンなどもかなり危険だ。沖国大へ墜落したのもシースタリオンではなかったか。当然これは飛行ルートの問題でもある。普天間では常態化している民家や学校の上空を飛ぶルート(単に滑走路の延長線上というだけでなく、訓練として周辺で飛行している)が辺野古でもそうなるのかどうか。付随して騒音問題もあるだろう。
米兵の犯罪は、米兵が基地周辺の街へ出てくることが可能かどうかということだと思うが、休暇中の米兵の行動が全部制限されるわけではないだろうから、それが設置される基地周辺地域でどれだけリスクが高まるのか、ということになるだろう。地位協定による日本の捜査権限の問題も犯罪抑止に関わってくる。基地に逃げ込めば大丈夫と思われては困るからだ。もちろん綱紀粛正が米軍内で図られているかどうかという点もある。また部隊の種類にもよる。現在も辺野古にはキャンプ・シュワブ基地があるわけだが、普天間の海兵隊のヘリボーンなどを担当する部署との違い(米兵が任務で背負う負担の大きさの度合い)は、犯罪の発生率にも関わってくるはず。
軍人の性に関する問題はアメリカでもあえて触れないようにしているところがある。性とまで言わずとも、過酷な任務につく兵士の息抜きのための歓楽街と言ったものの存在は切っても切れない。治安にも関わってくるので、移設先がそういった影響をうけるのか、具体的に米兵の移動ルートや立ち寄り先の場所なども詳細に検討しなければなるまい。
また基地の立地は、広範囲な防衛及び攻撃作戦にも関わってくる。沖縄に基地が多いのは、地政学上の観点で見ると、軍用機や軍艦の運用上、都合がいい場所にあるからだ。しかしこれは航空機や艦船の性能によっても変わってくる。
無人機や超長距離機、宇宙軍の運用などが進めば、沖縄の基地としての価値は下がり、返還も進むかもしれない。これらの新兵器は、実用化の段階に入っているから、決して絵空事ではない。
日本の安全保障という意味でも、同じことがいえる。米軍による安全保障では、本土の防衛のために沖縄が犠牲になっているという意見は、間違いではないものの、防衛にはその沖縄も含まれている。
中国の進出がリアリティを増している先島諸島では、自衛隊の配備で賛否揺れてきているが、沖縄本島ではまださほど実感はない。
自分たちの安全保障は、基地による弊害だけでなく、周辺国との関係も出てくる。中国にも韓国にも、沖縄は自国領土だと主張するものがいる。中国では解放軍の将軍クラスでそういう発言を公にするものがいるが、これはあまり良いことではない。中国は今や軍事大国で覇権主義であることも忘れてはならない。日本との戦争によるリスクを考えて今は外交で処理しようとしているが、中国の中央政府は必ずしも軍を抑えきれていないので、将来偶発的な戦争勃発による被害もある程度想定はした方がいい。
基地移設の問題は、移設先の住民の生活が守られるかどうか、が、目の前の問題だ。
この問題は、推進派も反対派も曖昧なところがある。詳細に調査して、それぞれに対し対策が取れるのか、どういった対策があるのか、全てを洗い出した上で公表し、賛成なり反対なりを決めるべきだろう。反対派も、たとえ最終的には基地全部に反対であっても、これはした方がいい。
かつてメガフロートによる基地移転の案がずいぶん検討されたことがあった。沖合の海に浮かぶ鋼鉄の大地に基地を作るというものだ。技術的には可能な方法で、実際、空港として使えるか、東京湾に小型のフロートを建設して離発着の実験を行ったこともある。羽田空港の沖合展開でも検討された(結局、桟橋方式になったが)。
普天間代替案としては、結果的に、天候上の問題、防御の問題、環境負荷の問題、業界のシェア争い、米軍内での反対、基地反対派の反対、その他もろもろの反対によって頓挫したが、今考えると、現在の基地代替案よりは負担軽減の意味でも、将来撤去が可能という点でも、技術の発展という意味でも、環境負荷の意味でも、魅力的だったかもしれないと思う。

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