三菱の旅客機、MRJの初号機がロールアウトした(エヴァ以降は一番機とは言わず初号機が普通になったね)。
飛行可能な状態で組み立てられた最初の機体で、今後様々な試験を経た上で、来年の初飛行を目指す。この試験用の機体を全部で5機組み立てるという。
全く白紙の状態から始まって6年。2度の延期を経てようやく完成した。座席数70〜90席クラスの機体。
燃費がよく、見た目もこのクラスにしてはなかなかかっこいい。飛行機は開発費がかかるため、どうしても完成前から注文を取っていかなければならないが、実機ができるとアピールもしやすくなる。
すでにローンチカスタマーの全日空を始め日本の2社、アメリカの3社とミャンマーの1社から計400機以上の受注があるが、180機以上が変更可能なオプション付きなので、まだ採算ラインギリギリのところ。ただ日本航空がこの夏に発注したため、日本の大手2社が購入を決めたことは、宣伝力を高めている。
日本政府が政府専用機のうち小型のものとして導入を検討している他、東南アジアの複数の国で導入の動きが見られる。ヨーロッパ・アフリカ・南米方面への売り込みはまだまだなので、これから先、営業次第というところ。
ライバルは主に4社。
もっとも競合するのがエンブラエル社のE-JETシリーズ。特に開発中のE2だ。
三菱よりも開発開始が遅く、既存の機体を改良したものだが、完成も早いと見込まれている。向こうも三菱をライバル視してのことだろう。何しろこのクラスのベテランメーカーであるため、三菱が持っていないノウハウも多い。とにかく強力なライバル。
中国の航空製造が連合し国家の支援も大きい中国商用飛機が開発したARJもすでに飛行に成功し、中国国内でどんどん受注を増やしている。機体設計はさほど新しくないようだけど、国内で半ば強制的に売った分、値段を下げて国際市場に出てくる可能性もある。アフリカなどでは燃費性能や最新アビオニクスといったことよりもまず値段だから、これも注意が必要なライバルになる。ただこの会社はより大型クラスの市場を狙っているので、若干市場の範囲が違う。
このクラスで最も成功している車両メーカーのボンバルディア社が作ったCRJシリーズ700と900も競合機種。ここも大きなライバルだけど、三菱はボンバルディアの飛行機製造にも関わっているし、これからの主力が100席クラスの機体(CRJ1000)とみられるので、市場ではかぶらない部分も大きい。また欧米に比べてアジアでは弱く、小さな事故が多い機体でもあるので、エンブラエルほどの脅威ではないかもしれない。
そして、ロシアのスホーイ社。もともとソ連の軍用機研究機関スホーイ設計局から始まった同社は戦闘機や戦闘爆撃機では今も大きなシェアを持つ。ここが開発を進めたのがスホーイ・スーパージェット。60〜100人クラスの双発ジェット旅客機ですでに飛行している。販売なども含めて欧米の数社と共同開発しているため、特に欧州で注目されている飛行機だ。ただ導入機数はまだ少ない。
このほかにウクライナのアントノフ社のAn−148、フランスのATRなどが同クラスの飛行機だけど、すでにやや前の機体である上に、An−148は受注数が少なく、ATRはプロペラ機なので、上記4社との競争になると思われる。
デザインを見ても、MRJはこれらの機体に対してかなり新しく、想定される燃費性能もいいので、あとは初飛行などの一連の試験がうまく行き、型式証明が取れれば、相応に市場を拡大できる見込みはある。三菱の最終目標は3500機。今後10年で1000機を目指しているという。5000機以上の市場と考えられるので、それほど無謀な目標ではない。
もちろん政府や経済団体の後押しも重要だ。内外の地方路線、地方国際線も想定しているので、自治体や地域企業などの応援、タイアップもあっていいと思う
識者やネットなどでは、どうせ大した違いはない、売っても無駄だ、ガラパゴスだ、などと偉そうな否定的な意見もしばしば見られるが、具体的な問題点を指摘したものは殆ど無く、自分の国を批判して自分がご立派であると示したい程度のものだから無視していい。
ガラパゴスと言われた日本の携帯電話(フィーチャーホンの意味で使われているが、本来はサービス的な意味)も、海外に規格のない軽自動車も、今になって、そのサービスや性能が国際的に注目されている。製品というのは、時と場合、手法によって売上は変わってくるので、一時の不振が絶対的なものとは限らない。国内だけの製品はもともと海外市場を意識していないため、当初は皆ガラパゴスだが、後でクールに見られて売れ出すこともしばしばある。
ただし、航空機は、手を抜いたら一発アウトな厳しい市場である上に、失敗した時のリスクが異常にデカイ。特に量産体制を取るためには相応の生産ラインが必要で、売れなかったらその分の損失が出てくる。また将来的には事故の発生も考慮しなければならない。どんなにきちんと作っても、何かしらのトラブルは必ず起こる。特に予測外の「初期のトラブル」は機械製品の絶対通る道。型式証明を取るノウハウもないし、市場への売り込みも未熟。と課題は多い。
もっとも、課題が多いほど、それをクリアしていく過程で得るものも多くなる。国産機の開発を無駄だ無駄だというのは簡単だが、開発して得られることの大きさのほうが、先々ではあらゆる分野に意味を持ってくるだろう。成功すれば、地域経済への影響も大きくなるし、日本の知名度も上がって、他の製品にも影響を与える。
リスクは素人が偉そうに批判するまでもなく関係者が一番わかっている。それを乗り越えていこうというのだから、ぜひ応援していきたい。

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