東海道新幹線開業50年。
開業以前に走行速度が時速200kmを超える鉄道車両がなかったわけではないが、営業運転で200kmを超える路線は世界初だった。
建設中、作家の阿川弘之が、世界三馬鹿にならぶ愚行にならないか、再考してほしいと朝日新聞に書き、新幹線建設計画を批判した。
有名な話だ。
三馬鹿とは、ピラミッド、万里の長城、戦艦大和のこと。
阿川弘之はこれを無用の長物として評した。
これから自動車社会、飛行機社会になるのは目に見えているのに、なぜいまさら新幹線なのか、というわけ。
後に彼は、公式にこの発言を撤回した。
新幹線は失敗に終わるどころか、黒字営業の大成功を収めたからだ。
しかも彼は、その後、新型新幹線車両の命名で、「ひかり」「こだま」は大和言葉だから、と娘で名称決定委員だった阿川佐和子にアドバイスし、候補に残った「希望」の大和言葉「のぞみ」が選定されることになった。
いまや、世界中に高速鉄道網が広がり、日本の新幹線も売り込みが盛んだ。
もっとも今でも、新幹線はコストが高いので無理だ、と批判する識者はしばしば出る。
識者というのは、自分の生まれた日本に関わるものを批判することで、客観的な自分を自慢するが、大体は適当な根拠であることが多く、実は客観的どころか、感情的に発言していることが多い。
阿川弘之は後にきちんと誤りを認めた点でさすがではあるが、たしかに、事前に新幹線の成功を予測するのは、当時の社会では難しかっただろう。
とはいえ、情報がもっと多ければ、新幹線の有意義さもわかったと思う。
車や航空機に比べ、安全性が高く、移動中も比較的行動が自由にとれ、旅行中の予定行動に幅をもたせられるだけの高速性があるのだから。
三馬鹿呼ばわりされたものだって、時代の変化に伴い見方も変わってきている。
ピラミッドはかつてはファラオが権力を誇示して奴隷を鞭打ちながら作らせたお墓だと思われていたが、近年その説は否定されており、宗教的意味合いを含んだ洪水期の失業対策事業だったとみられるようになった。建設労働者も奴隷ではなく、衣食住が整い、高度な医療サービスも受けられ、ゆるやかな勤務体制であったことなどが発掘品からわかってきた。
もっとも、ムチでしばきながら作るというのは、実際に考えて見れば労働力の低下や反乱などを招くだけで、あんな巨大なものは作れなかっただろう。
万里の長城も、よそからの軍事的侵入を阻止するという観点で言えば、必要性も、意味もあった。また、最初から今残っているものを作ったわけではなく、小さな防塁を徐々に大きくし、つなぎあわせ、改良したのが今残る、明朝以降の長城だ。また古い時代には生命倫理などはあって無きがごとし。侵略されれば、どんなことになるかは自明の理であった。その意味でも、長城は必要性があり、無用の長物ではなかった。
戦艦大和も、時代遅れの大艦巨砲主義と称されるが、一概には言えない。アメリカはベトナム戦争の時代にも戦艦を使っているし、戦艦に搭載する個別の兵装は発達するから、戦没せずにいればいずれミサイル等へ変化し、役割も代わっただろう。航空戦力の優位性がわかっていながら空母を作らず大和を作ったという批判もあるが、航空戦力の優位性はハワイ・マレー沖海戦など大和がほぼ完成を見て以降にわかってきたことだし、また今でもそうだが、艦隊は多種多様の艦種によって成り立つ。空母だけがあっても役には立たない。
戦艦大和の問題はむしろ運用の仕方にあったろうし、大和クラスの建艦技術は戦後の造船の発達に大いに役立った。
大和が戦没した最後の沖縄行も、片道分の燃料を積んでいたというのは間違いで往復できるくらいはあったという。しかし見込みの薄い作戦であったのもわかっていたはず。そういった点が、戦後の戦争批判の中で、戦艦大和そのものへの否定論になったのだろう。海軍士官だった阿川弘之にとっても、敗戦という忸怩たる思いがある中で大和への批判につながったのだと思う。
大体にして、大きなプロジェクトは最初批判の嵐にさらされる。
無駄だ、なんの役に立つのだ、他のもので代用できる、もっと良い物がある、そんな金があったら教育と福祉に回せ。
某民主党政権時代の事業仕分けなどもそういった程度のレベルで行った魔女狩りみたいなものだったが、これはよくある話だ。
もちろん数あるプロジェクトの中には、結果的に何だったのかわからないまま終わってしまった計画もたくさんある。禍根を残したものや、大失敗に終わったものもある。自治体などのプロジェクトでは、見通しがひどく甘いものも多い。
しかし、そういった事例があるからといって、一概にすべてのプロジェクトがダメかというとそうではない。審査するときには、より詳細に、きちんとした客観的事実の積み上げが必要。感情的に批判するものではない。
そして、きちんとやるべきことが出来たからこそ、新幹線は今も路線を増やし、世界にその名を知られるようになったわけだ。成功したプロジェクトとして歴史に残っている。

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