『進化と人間行動』
長谷川 寿一・長谷川 眞理子(著)
2000年
東京大学出版会
☆☆☆☆☆
長谷川夫妻による進化生物学あるいは進化心理学についての、非常にわかりやすい教科書。ある意味完璧な教科書。
だけども、僕は人に勧めるとしたらこの本ではなく、長谷川眞理子先生の『
進化とはなんだろうか』(1999年 岩波書店)『
オスとメス=性の不思議』(1993年 講談社)の新書2冊を買うことを薦めるだろう。何故なら、内容はほとんど同じだと感じたし、新書を2冊買った方が安いからだ。
これに対しては、次のような反論があると思う。「本書の『売り』は、タイトルにあるように、進化生物学の視点で人間行動を見てみようというところにある。新書2冊では、そのような試みを正面から取り上げてはいないだろう」と。それは全くその通りだと思う。しかし、僕自身最も楽しみにしていた、ヒトについて語った部分に満足できなかったので、上述の2冊の新書を買う方を薦める、というわけだ。
本書では「社会」について何も語られていない(人間社会に限らず、同種同性の2個体による相互作用についてはほとんど語られていないように感じる)。いや社会についても当然触れられているのだけれども、それまでの自然科学的な語り口が急に社会科学的な語り口にかわってしまうように感じる。期待しているのは、自然科学的な語り口で、ヒトやその社会について語ってもらうことなのに。ただし、これは社会についてのまともな科学がないという、どちらかと言えば社会科学側の責任なのかもしれず、ないものねだりをする相手を僕は間違っているのかもしれない。
全くほめているようには見えないかもしれないが、最後にもう1度、本書が完璧な教科書であることは強調しておきます。
本文約270ページ。

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