『図解入門 数学セミナー よくわかる線形代数の基本と仕組み――イラストで学ぶ、ベクトル・行列の基礎――』
小林 道正(著)
2005年
秀和システム
☆☆☆
「図解入門」シリーズの1冊。
おそらく大学1〜2年生あたりを対象とした、線形代数についてのお手軽系テキスト。同シリーズの『
よくわかる行列・ベクトルの基本と仕組み』(苅田正雄・上田太一郎・渕上美喜 2004年 秀和システム)が行列式・逆行列・連立方程式・固有値と固有ベクトル等の「計算の仕方」に的を絞っているのに対して、本書は線形代数の基礎を一通りやっている。扱われているトピックは、ベクトルの内積・外積・交代積、直線と平面の式、線形変換、連立方程式、逆行列、1次独立・1次従属、階数、基底変換、固有値と固有ベクトル、対角化、2次形式、等。
『
よくわかる行列・ベクトルの基本と仕組み』と較べると、数学的概念の「意味するところ」に関する記述ははるかに多いが、しかし、わかりやすいと言えるかというと…、普通の教科書レベルではないかと思う。線形代数の授業を受けたことがない僕としては(高校時代に文系数学としての「ベクトル・行列」は習ったが)、式の書き換えのテンポがちょっと早過ぎで、また式を示して「ほら、この通り」という場合も多く、正直、わかりやすいとは思わなかった。このテの本は、大学の授業などで採用されている教科書よりもわかりやすくなければ意味がないのに。(ただし、線形変換の様子を図示したイラストはわかりやすいと思った)。
僕が読んだのは第1版第1刷だったのだが、どうもa
ij等の記号の添字が間違っている箇所がいくつかあったように思う。そもそも内容をちゃんと理解していない読者として、これが印刷ミスなのか、それとも単に自分の理解不足なのかがわからず、腑に落ちないままで気持ち悪い。また、「本書の特色は、『実際の生活や社会での活用のされ方、社会科学や自然科学といった諸科学との関係を、すべての項目で導入時から扱っている』ということです。」と「はじめに」に書いてあるが、これは全くの嘘。どこにそんなことが書いてあるの?というのが正直なところ。確かに第1章には面白くなりそうな予感はあったんだけど…。
行列というものを使うとどういうメリットがあるのか、さっぱりわからないな〜。数学者が数学研究そのものを目的としてベクトルや行列というものの性質を明らかにしてきた、というのはわかる。それに、線形代数がなかったらコンピュータの統計ソフトウェアもまたなかっただろう、とも思う。だけれども、ベクトルや行列という概念を得たことによって、それまで見えなかったものが僕に見えてくるようになるのでないのなら、自分にとっては意味がない。線形代数に限らず、新しい概念を得ようとするのは、自分の視点を豊かにするためなのだから。で、きっと何かが見えるようになるのだろうと思うのだけど、それが何なのかさっぱりわからないのだ。
ちなみに…、連立方程式を1行で書けちゃって、変数の数が10個でも100個でもそんなことは気にせずにいられる、というのは、オブジェクト指向プログラミングみたいだな、と思う。行列の要素は各行列オブジェクト自身にもたせる。演算はメソッドとして定義する。このように実際の値や演算をカプセル化し、面倒な部分はオブジェクト自身に任せてしまうことで、細かい話はユーザーから隠蔽してしまう。その結果、ユーザーは正比例関数としての行列の大枠(インプットとアウトプットというインターフェース)に専心できるので、ものごとがシンプルに見え思考がクリアになる。まぁ、そういうメリットはあるとは思うのだけど(考えてみれば、統計ソフトってそういうつくりになっているのだろうな)。
本文220ページ程度。

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