『青い春 松本大洋短編集』
松本 大洋
1999年
小学館
☆☆☆
『花男』『ピンポン』の松本大洋による初期作品の短篇集。僕が読んだのは、1993年に小学館から刊行されたオリジナル版ではなく、1999年に復刊された単行本だと思う。
収録されているのは、
・『しあわせなら手をたたこう』
(ヤングサンデー1990年01月26日号掲載)
・『リボルバー』
(ビッグコミックスピリッツ1991年05月06日号〜05月27日号掲載)
・『夏でポン!』
(近代麻雀オリジナル1991年07月号掲載)
・『鈴木さん』
(ビッグコミックスピリッツ増刊1991年10月31日号掲載)
・『ピース』
(ビッグコミックスピリッツ増刊1992年07月09日号掲載)
・『ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!』
(ビッグコミックスピリッツ増刊1992年09月01日号掲載)
・『だみだこりゃ』
(ビッグコミックスピリッツ増刊1993年01月03日号掲載)
の7篇。発表された順に並んでいる。『リボルバー』以外は全て1話読み切りの漫画。
僕は、90年代初頭に『花男』で松本大洋という名を知って以来ずっと彼を避けていたのだが、去年映画『
ピンポン』(曽利文彦 監督 2002年)を観たのが1つのキッカケとなって、彼の漫画をそろそろ読んでみようかという気持ちになっていた。それで本書を手に取ったわけだが、読み始めて驚いた。冒頭の『しあわせなら手をたたこう』を読んだおぼえがあるのだ。おそらく掲載されていたヤングサンデーを立ち読みしたのだろう。これまで「松本大洋作品は1つも読んだことがない」と思い込んでいたのに…。
Wikipediaによると、彼は『俺節』『編集王』『同じ月を見ている』の土田世紀に憧れていたのだそうだ。確かに、この単行本に収められている短篇には、初期土田作品(例えば『未成年』)と同じ匂いを感じる。言葉にするとそれは、虚無感、焦燥感、崖っぷち感、というようなことになるだろう(「崖っぷち感」なんて言葉ないか)。最後の2篇(『ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!』『だみだこりゃ』)を除く単行本の大部分に、感じている本人にも理由のわからない苛立ちのようなものが満ち溢れている。おそらくこの苛立ちの理由は、自分の感じているものに言葉を与えられない、ということなのだろう。強烈に何かを感じているのに、それが何なのかわからない状態というのは非常に気持ちが悪い。僕もかつては同じような苛立ちを感じていたように思うが、今は比較的スッキリしている。自分の感じていることの大部分を言葉で表現できるようになったからだ。
この単行本に登場するのは80年代テイストの不良男子高校生がほとんどで、こう言っちゃナンだが「自分の感じていることに言葉を与える」という行為そのものを知らないようなヤツラばかり。そういう彼らの姿を、自分自身は不良学生ではなかったけれど、と言う松本大洋がハードボイルド的に淡々と描いている。言葉によって説明するのではなく、彼らの日常生活を切り取っているだけなのだが、彼らの内面におけるもがき苦しみのようなものがよく表現されていると思う。エンターテイメント作品として楽しめるかどうかは、もちろん別の話だけど。
僕としては、『しあわせなら手をたたこう』『ピース』に描き込まれた閉塞感をリアルに感じた。失った夏を取り戻すために延々と麻雀を続けるだけの高校球児を描いた『夏でポン!』も吉。声をかけてくれたヤクザの話『鈴木さん』も面白い。
ちなみに、『しあわせなら手をたたこう』を原作として映画『青い春』(豊田利晃 監督 2001年)が、『リボルバー』を原作としてオリジナルビデオ『リボルバー 青い春』(渡辺武 監督 2003年)が作られたようだ。

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