『マインドマップ練習帳』
片岡 俊行(著)
2006年
秀和システム
☆☆
mixiで再会した高校の同窓生に「『マインドマップ』の勉強会をしよう」と誘われ、一番安い本を読んでみた。マインドマップについては、思考・発想支援のためのソフトウエア紹介で名前を聞いたことがあったくらいで、正直あまり関心がなかった。何でも「最新の脳科学の知見に基づいた、情報整理・記憶術・発想法」だそうで、そういう言い方をされると逆に僕はインチキ臭さを感じてしまう。
ただ、アマゾンで関連書籍を検索してみると、ビジネス書だけでなく、ソフトウェア開発関連の本にもマインドマップの名を冠したものがいくつかあり(例えば、『ソフトウエア開発に役立つマインドマップ』(平鍋健児 日経BP社 2007年)、『システム開発を見える化するマインドマップ』(渡邉安夫 オーム社 2008年)、『マインドマップから始めるソフトウェアテスト』(池田暁・鈴木三紀夫 技術評論社 2007年))、「情報共有のためのビジネスツール」として使えるものなのかも、と興味がわいてきた。
本書は、「マインドマップって何?」というような読者を対象に、その概要と描き方を優しく(易しく)指南する「練習帳」。マインドマップをビジネスの現場で活用している著者によれば、だいたいマインドマップというものは3枚も描いてみれば使いこなせるようになってくるものなのだという。お手本を参考に、自分でマインドマップを描いてみる、というのが本書のコンセプト。
著者によれば、マインドマップを活用することによって、「情報の整理整頓」「記憶力の向上」「発想力の向上」の3つが期待できるという。本書では、そのうち「情報の整理整頓」という点に焦点を合わせている。
ところで、そもそもマインドマップとは何か、ということを僕なりにまとめてみると、単に「構造化されたメモの取り方」に過ぎないんだと思う。通常、ノートや書類というものは、上から下へ一直線に書いて(読んで)いく。ところが、物事の関連性というものは大抵の場合多次元的なものなので、それを1次元のメモにまとめるのにはそれなりの(話を聞きながら、リアルタイムで情報の配置を組み替えていくような)技術がいる。そういう技術がないと、ノートの空白部分にランダムに情報を書き足していったような乱雑なメモが後に残るだけだ。
マインドマップは、「多次元的なメモを取るためのちょっとした工夫」なんだと思う。1次元的に情報を並べることを最初から考えず、少し大きめの紙の中央にメインテーマを書き込み、関連情報や思いついた事柄をその周辺にどんどん書き足していく。ただしその際、(おそらくスペースの節約のため)キーワードだけを書き込むことにし、関連するキーワードとキーワードを必ず線で結んでいく。自ずと、キーワードは中央から放射状に広がっていく(「放射状連想」)。関連するキーワードは近くに配置されているため(「グルーピング」)、関連性を視覚的に把握しやすい。1枚の紙に書き込むので、全体像も把握しやすい(「全体視」)。これを「マインドマップによる三大テクニック」とか何とか大袈裟に言うわけ。
「あなたの脳の力を引き出す、最新脳科学に裏打ちされた画期的な情報整理術!」というのは、ビジネス書にありがちな単なるハッタリ・箔付けに過ぎない(「聞き流すだけで英語力がグングン伸びる、最新脳科学に基づいた画期的な英語学習法!」みたいなものである)。「大事なところはペンの色を変えると記憶しやすい」って、そんなこと小学生だって知っている。だいたい、マインドマップの発案者のトニー・ブザン氏は脳科学者ではなく、ビジネスコンサルタントだ。
と言うわけで、ボロクソに書いてしまったが…、これ、活用できればそれはそれでいいんじゃないかと思う。例えば、僕は書評や映画評を書くときに、(多次元的に広がる)自分の感じた事柄を(1次元的に)まとめるのに苦労することがある。マインドマップそのものを公開しようという気にはならないが、自分の暗黙知の全体を俯瞰し、形式知に変換するツールとして活用できれば有用だと思う。
本書を読んでいて、本来「情報の整理整頓」「記憶力の向上」「発想力の向上」のための手段としてマインドマップを使うはずなのに、「奇麗なマインドマップを描く」ことそのものが目的になっているような雰囲気をときどき感じ、首をひねった。
本書に関しては、正直、立ち読みでいいんじゃないかなぁと思う(ただ、マインドマップは「習うより慣れろ」だと思うので、読者に実際に描かせるという本書のコンセプトは正しいと思う)。本文の半分はイラスト(と言うか、マインドマップそのもの)で、すぐ読めるし。もう少し「理屈」の書いてある本、活用に際するワンポイントアドバイス・注意点の書いてある本、「情報共有術」としての側面について書いてある本も読んでみたいと思う。
本文90ページ程度。
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Buzan World Wide Japan Mind Map Official Site

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