『いちばんさいしょの算数 1 たし算とかけ算』
橋本 治 (著)
2008年
筑摩書房
☆☆
ちくまプリマー新書の083。
僕の憧れの人の1人に橋本治という人がいる。頭が良くクリエイティブで、その上(ルックスは良くないにも関わらず意外と)笑顔が素敵だったりする。Naturalに変。その橋本治が書いた算数の本、これは面白いに違いない!と思って早速買ってきたのだが…。
本書は小学校の算数を扱う4冊シリーズの1冊目で、1桁の正の整数のたし算と(答えが10を超えない範囲の)かけ算を扱っている(小学校1〜2年生レベル?)。対象読者は小学校3〜4年生のようだ。
ちょっと凄い本で…。どうやら本当に小学生に読まれることを想定しているようで、「以下、同様に…」という種類の省略が完全に排除されている(確かに、パターンを理解した上で「以下、どのように同様なパターンが続くのか」を推論することは、大人が考えるほど簡単なことではないだろう)。基本的に、「何と何ならいくつ?」が「たし算の考え方」、「何がいくつならいくつ?」が「かけ算の考え方」である、ということを理解させることだけに1冊全てを費やしているような本なので、冗長さが半端じゃない。その冗長さに大人の読者は耐えられないだろう。漢字の使用も極力避けられているので、大人にはかえって読みづらい。しかし、この本を本当に小学生が読むかというと…、読むのかなぁ? 小学校1〜2年生段階でつまづいてしまった子供に算数を教えるために大人が読むことを考えると、この「実際に小学生に教えるとしたら著者ならこう教える」という内容をそのままを書く、という作戦はちょっとどうかなぁと思う。
この本で面白かったのは、教えている算数の内容そのものよりも、どうやって子供に自信を持たせるかについての著者の工夫。1から10の数をよく知っているなら、実はもう「たし算の考え方」を知っているはずだ(知っているはずなのに、知っていることに気づいていないだけだ)、だから、算数は苦手だと思うことはない、等、子供自身がそんなことは当たり前で知っていたって仕方がないと思っているようなことに対して、それを知っているということが(本人は気づいていないかもしれないが)どれほど多くの他のことを知っていることを意味しているかを繰り返し説いている。1から10までの数のたし算ができない大人はいないと思うが、1から10までの数を知っている子供に、そのことがその子供の内に「たし算の考え方」が既に身についているということを意味しているのだと、実例を挙げて納得させられる大人はそうはいないと思う。ここに著者の非凡さの一端が垣間見える。
ちなみに、大人としてシビれちゃったのは、「算数でたいせつなことは、『それは知っている』と思うことです。それができるようになるためには、なにがひつようでしょう? そのためにひつようなことは、『自分が知っていることをたいせつにする』なんです。」という下り。僕はこれ、どんなことにも当てはまると思うんだけど、ここまでズバッと言い切っている人を見たことはほとんどない。
本書を読んでいて、「なるほど」と思う点はたくさんある。もし僕が子供に算数を教えなければならないとしたら、この本の内容を参考にするだろう。そういう意味では、この本を直接子供が読む本ではなく、子供に算数を教えるために大人が読む本として書いてくれていたらなぁ、とやや残念。ただ、実際に子供が読んでわかりやすい本を書ける人もまた稀だと思うので、そこに著者の真価が発揮されるのなら、それはそれで良かったのかもしれないな、とも思う。
本文175ページ程度。

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