『ことばと文化』
鈴木 孝夫 (著)
1973年
岩波書店
☆☆☆☆
岩波新書のC98。本書を英訳した“Words in Context”(Akira Miura(訳) 1984年 講談社インターナショナル)も刊行されている。
自分で買った記憶はないのに、何故か自宅の本棚に並んでいた本。『
日本人はなぜ英語ができないか』(鈴木孝夫(著) 1999年 岩波書店)がわりと読み応えのある本だったので読んでみた。
何と1973年の本。さすがに35年前の本となると、内容的に古過ぎるのではないかと思ったのだが…、思いのほか面白く読んだ。著者は多数の著書をもつ人だが、おそらく本書は著者を代表する著書なのだろうと思う。古い本だが、言語に興味をもっている人なら当然読んでいるべき「教養としての1冊」だろうと思う。
内容としては、「文化」が当の文化の内側で育った者にとって至極当たり前で見えづらいものであることを指摘した上で、「ことば」がそういった「文化」としての側面を非常に強くもつものであることを繰り返し述べている。ある言語の話者にとって当然の用法が他の言語の話者にとってはどうにも理解し難いものに見える場合のあることや、日本語の用法が日本での社会生活や日本人の行動様式と密接に関連しているものであることを豊富な例をもって示していく。
もともとはより専門家向けの媒体でバラバラに発表されたものに手を加え、一般読者向けの1冊としてまとめたもの。結論に向かってジックリ論を進めていくタイプの本ではないが、「文化現象としての言語」というテーマを切り口に言語にまつわる幾つかのトピックが述べられていると考えれば、各章の「ゆらぎ」はそれほど気にならなかった。
著者の専門は言語社会学だそうで、本書の面白さの一端は、著者が「言語だけ」の専門家ではないところに由来しているのだろうと思う。ただ、だからこそむしろ不満に思うのは、日本語という言語と、個々の日本人のもつ文化的価値観、そういう日本人の織り成す日本社会の構造的特色とが、具体的にどのように関連し合っているのかについて充分に述べられていないこと。「無関係ではあるまい」という意見には同意するものの、本当の面白さは、「どのように関係しているか」を解きほぐしていくところにあるように思うのだ。「言語・文化・社会がどのように構成されているのか」というテーマほど面白いテーマはないとも言え、本書に社会科学的な内容がもっと含まれていれば、まさに「ことばと文化」について述べた極上の本になっていただろうと思う。
本文205ページ程度。

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