『脳と社会』
武田計測先端知財団(編)
川人 光男・大隅 典子・山岸 俊男・唐津 治夢(著)
2010年
ケイ・ディー・ネオブック
☆☆
一般向けに開催された「
武田シンポジウム2010」(武田計測先端知財団)での講演、パネル・ディスカッション、等の内容を書籍化した薄い小冊子。サブタイトルは「誤解を解き未来を読む」。
シンポジウムのテーマは本書のタイトルでもある「脳と社会」。分野の異なる3人の話者が講演を行っている。川人氏はブレイン・マシン・インターフェイス技術が現在どこまで進んでいるかについて、大隅氏は神経新生(大人になっても、脳の神経細胞は新しく作られているらしい)とある種の心の病との関係について、山岸氏は実験社会科学・神経社会科学といった新しいかたちの社会科学における脳科学研究の意義について、それぞれ語っている。また、3人の講演の後に行われた、唐津氏を司会とするパネル・ディスカッションと質疑応答の様子、シンポジウムの参加者(聴衆)8名の感想文も収められている。
正直言って、タイトルもサブタイトルも的外れに感じた。そもそもシンポジウムのテーマとして「脳と社会」を掲げたとき、単に「脳が集まって社会ができる」というような(バカっぽい)ことを考えていただけのようだ。聴衆の多くは、脳科学の急速な発展によって社会がどのように変わっていくのか、何が社会的な課題となってくるのか、といった内容を漠然と期待していたのではないかと思う(が、あまりそういう話にはなっていない)。
そもそも曖昧なテーマの元で行われたシンポジウムだったのだと思うのだが、3人の講演内容もバラバラで、それぞれがそれぞれの解釈した「脳と社会」について話している。パネル・ディスカッションも話がまとまっているようには思えない。
シンポジウムの聴衆(と言っても、本当に一般の聴衆ではなく、大学教授や技術者、企業経営者、サイエンス・コミュニケイター、等だが…)の感想文が収録されているのは面白い試みだと思う。ただ、読んで面白いものではなかった。サイエンス・コミュニケイター系の人の言うことは多少面白かったが…。
装丁が学術書っぽい雰囲気の本だが、内容は完全に一般向け。個々の話者の講演内容自体はまとまっていてそれなりに面白いので、サイエンス好きの人は通勤・通学時の空き時間等に軽く読んでもいいかと思う(ただし、この内容で1,050円は高いと思う)。
本文125ページ程度。
※ この本自体には大いに不満なのだが、僕にとってヒットだったのは大隅氏の話の巧さ。脳の神経細胞という難しくなりがちな話を実に分かりやすく話してくれている。この人の書いた本なら…、面白いかもしれない。

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