『ニュースの「大疑問」――わかる、みえる、世の中のからくり――』
池上 彰(著)
1998年
講談社
☆☆☆
言わずと知れた池上彰氏の筆による最初の本。サブタイトルは「わかる、みえる、世の中のからくり」だが、「世の中のからくり」を網羅的に解説しようという本ではなく、日頃のTVニュースで見かける「ちょっと気になる言葉」の中から多くの視聴者が疑問に思うようなトピックを取り上げ解説している(そういう意味で、『ニュースの「大疑問」』というタイトルは、本書のコンセプトをストレートに表わすものだと思う)。90年代半ばから後半にかけて話題になっていた時事的な関心に基づいて、トピックが取捨選択されている(そのため、残念ながら、この本の賞味期限は既に切れていると思う)。
本書刊行時の著者の肩書きは「NHK科学・文化部記者」。表紙には「NHK『週刊こどもニュース』キャスター」とある。子供向けニュース番組であるにも関わらず「実は大人が見ていた」というこの番組、当時から彼の「子供向けの解説」は「大人にとってもわかりやすい」と評判だった。本書は番組に寄せられた多くの質問・疑問点を踏まえた内容となっており、まさに「番組から生まれた本」と言えそうだ。
取り上げられているトピックは幅広く、警視庁と警察庁、円高・円安、北朝鮮、大リーグ、消費税、細菌とウイルス、TV視聴率、検察の仕事、アメリカの陪審制度、公定歩合、バブル経済、金融不安、日本版金融ビッグバン、郵政民営化、公的債務問題、選挙制度改革、族議員、沖縄の基地問題、アメリカの大統領と日本の総理大臣、地球温暖化、エルニーニョ現象、大地震、遺伝子、脳死と臓器移植、原子力発電、イスラム教、イスラエルとパレスチナ、香港、台湾、PKO、ロシア、EU、インターネット、報道・ニュースの常套句…、と、政治・経済・社会問題から環境問題、科学・技術、国際情勢まで扱っている。多くのトピックは7〜8ページと簡潔にまとめられており、各トピック間にはほとんど関連性がないため、ちょっとした空き時間に断続的に読み進めることができるだろう。
逆に言うと、90年代半ばの時事的なトピックを寄せ集めただけ、とも言え、やや「ブツ切り」的な印象。それぞれのトピックについてそれほど深く掘り下げているわけでもないので、(サブタイトルに反して)「世の中のからくり」が「わかる、みえる」ようになるかと言うと…、過大な期待は禁物だと思う。
わかりやすい解説で定評のある著者だが、僕自身は「週刊こどもニュース」やフリーに転じた後の出演番組を1度も見たことがなく、また著作も1冊も読んだことがなかった。彼は既に膨大な量の本を書いているので、1冊目の本書とは作風(?)が変わってきているかもしれないが、この本自体はわりと軽めの内容。モノゴトを「根本の根本」から説明しているわけではなく、あくまでも「ニュースを見ていて感じる疑問」について簡単に解説している本に過ぎない。
ただし、モノ足りないかと言えばこれがまた違って、ついつい惹き込まれてしまうのは確か。その秘密は何なのだろう?と考えてみると、おそらくその「口調」なのだろうと思う。とにかくリズムがいい。1文がやたら短い口語体で、接続詞も用いずにポンポンと文章を繋げていくテンポが絶妙。
接続詞を省くと「論理的な文章」にはなりにくいように思うが、そこは説明の順序でカバーしている。政治的な問題などは(妥協的な解決を図ったことによりかえって問題が複雑化するなど)時を経るに従ってますます話がヤヤコシクなっていくところがあるから、単純なところまで遡って順を追って説明している。その際、必ず「疑問に答える」という形をとって話を展開させていく。ときどき皮肉まじりのコメントを挟んで、笑いを誘う(これが息抜きになる)。書き言葉で書くと知らず知らずのうちに使ってしまうような「お決まりの表現」をなるべく使わず、小中学生にもわかるような言葉遣いで面と向かって説明してくれているような雰囲気がある。おそらく内容的には常套句を多用したツマラない説明とそれほど変わらないのに、読めば頭にスーッと入ってくる。頭に入ってくるんだもん、そりゃ惹き込まれちゃうよね。
著者ならではだな、と思ったのは、「報道・ニュースで多用される、独特の言葉遣い」を集めた最終章。そういった表現を用いらざるを得ない「報道する側」の事情について裏話的に述べていて、「そうだったのか!」と読んでいて楽しかった。
本文270ページ程度。

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