『「意識高い系」という病――ソーシャル時代にはびこるバカヤロー――』
常見 陽平(著)
2012年
KKベストセラーズ
☆
「ベスト新書」の391。サブタイトルは「ソーシャル時代にはびこるバカヤロー」。
就職・転職ジャーナリスト、キャリアコンサルタントとして知られる(?)著者による、毒にも薬にもならない無駄話。著者も「論客のはしくれ」らしいのだが、本書では何も「論」じていない。
就職・転職のための自己アピール、スキルアップ、自分磨き…、等々に極端なまでに入れ込んでしまった「浅はかな人」を揶揄・嘲笑するだけの「浅はかな本」。おそらく著者も同意するだろうと思うが、わざわざお金を払ってまで読むべき内容の本ではない。読むのにかけた時間が全て無駄になるタイプの本。久々に星1つ。
「NEWSポストセブン」「ジンジュール」「シノドスジャーナル」「就活の栞」といったネットニュースやブログ上で発表されていたコラム等を寄せ集めて1冊にまとめた本。著者自身は「色々なサイトに、様々なテーマで書いてきたのに、妙な一体感を見せているのはなぜだろう。」(「はじめに」)なんて書いているが、1冊の本として考えると、むしろまとまりの悪さの方が気にかかる(特に、「ソーシャルメディア」が世界を一変させるほどの大それたものではないことを述べた第3章、何故か雑誌「日経アソシエ」(日経BP社)の特集の変遷を示して見せただけの第4章は、「意識高い系」というテーマと無関係とまでは言わないが、かなり浮いている)。
著者としては、「本書は『意識の高い人たち(笑)』『意識高い系』を研究し、面白がりつつ、その背景にせまることにする。」(「はじめに」)ツモリだったのかもしれないが…、結局「背景にせまる」ことは出来なかったようだ。馬鹿を取り上げ「こいつらは馬鹿だ」と指摘する、ただそれだけの本で終わってしまっている。過激な口調で賛否両論の沸き起こる話題の書に仕立て上げようという意図もあるようだが、読者としてはその騒ぎに加担する必要はない。「意識の高い学生(笑)」を「痛い」だの「香ばしい」だのと嘲るが、「痛い」のはむしろ著者の方。人目を引くタイトルだけつけて、中身のないこんな本出して…、もう必死なんだもん…。
「意識高い系」の人々が、何故意識が高くなっていくのか、実際に仕事ができるのか、なんてことはどうでもいい。それよりも面白いのは、そういう輩が増えるのは、(少なくとも短期的には)彼らは何らかの利益を得ているからであるハズで、彼らが利益を得られるのは、彼らを利用して(長期的に)もっともっと利益を上げている業界が存在しているからであるハズだ、ということ。彼らをソソノカして「意識の高い」行動をとらせ儲けているのは一体誰なのか。そこには一体どんなカラクリがあるのか。人材系ビジネスやキャリアアップ・スキルアップ業界、ビジネス書出版業界に精通した著者に秘密を暴いて欲しいのは、むしろそっちの方だ(例えば、「使える英語を身につけて、グローバルに活躍しよう!」と「猫も杓子もTOEIC」ブームの火に油を注いでいるのは、少子化でお客さんの数が激減している教育・語学産業界だろうし、東京マラソン以降のマラソンブームでウハウハなのは、スポーツ用品業界よりも、GPSや心拍測定機能付きの腕時計、(度付き)スポーツサングラスといった関連グッズメーカー、健康食品・ダイエット業界、海外ツアー会社、等々ではないかと思う)。「意識高い系」を煽る(そして、彼らをカモにしている)黒幕は誰なのか。著者がそこにメスを入れないのは、著者も黒幕の一部だからなのか?
と言うワケで、見事に騙された。タイトルが上手い。何やら意味ありげなことが書いてある本に見える(笑)。「意識高い系」を「病」としてとらえ、その病理を明らかにしよう、という本では…、全くなかった(涙)。
本文200ページ程度。

1