『HTMLとCSSで基礎から学ぶJavaScript』
園田 誠(著)
2011年
秀和システム
☆☆☆
HTMLとCSSについてはある程度の知識と経験があるものの、プログラミングに関しては全くの未経験、というWebデザイナーのための「読むJavaScript入門」(デザイナー向けの本は、プログラミングの本でもカラー印刷なのか!?)。プログラミング言語としてのJavaScriptというよりも、HTMLやCSSを操作するためのブラウザ組み込みの機能としてのJavaScriptに焦点を当てている。「お勉強」の嫌いなWebデザイナーに対してWebページに視覚効果を与える例を提示し、学習へのモチベーションを高める等、「取っ掛かり」を与えてくれる本。尚、本書の内容を基に(標準規格の策定状況や主要ブラウザの対応状況、等)最新の状況を反映させたものが、同じ著者による『
ライブラリを使う前に読んでほしいJavaScriptの心得』(秀和システム 2014年)である。
全4章構成。HTML・CSS・JavaScriptの関係、JavaScriptコードの記述の基礎、等を扱った第1章から、簡単なイベント処理とDOMの操作(第2章)、CSS3による視覚効果(第3章)、更にはAJAXを用いたWebサービスの利用(第4章)、といったところまで(HTML5のWebStorageやCanvasについても少しだけ取り上げている)。Webページに視覚効果を施すいくつかのサンプルを題材に、そういった作例の実現のためにはどんな仕組みが必要で、どんな風にJavaScriptを活用すればいいのか、その思考過程を言葉を尽くして語り聞かせる内容。文章は完全に口語体で、何だか大学の集中講義(録)みたいだな、という印象。Webデザイナー科(?)の学生に対する夏休みの「JavaScript短期集中講座」といったところか。網羅的な内容ではないので、本書で「取っ掛かり」を得た後は、サンプル集のような本を眺めてJavaScriptでどんなことができるのか見聞を広げたり、教科書的な本を読んで抜け落ちている知識を補う必要があるだろう。
「HTMLとCSSなら任せておけ!」というようなWebデザイナーのための「基礎から学ぶJavaScript」入門。おそらく著者には、「サンプルコードをチョチョチョっと書き換えれば使えるよ!」的な書籍(やWeb上の情報)に頼ってばかりでは先は見えてるよ、という「老婆心」があるのだろう。本書には辛口なところもあるのだが、若きWebデザイナー達への溢れ出た愛情が著者にそう言わせしめているのである(たぶん(笑))。
いや〜、笑った。まさかJavaScript入門を読んで冒頭から笑うことになるとは思っていなかった! 雑誌「日経ソフトウエア」(日経BP社)を支えるライター陣の中では、僕はワリと著者の書く特集記事や連載が好きだ。著者は、アマチュアプログラマーが初級から中級へステップアップするのを手助けしてくれるようなテーマを掲げることが多い。本書巻末の著者紹介を見ると、何と著者は美大出身。その後紆余曲折を経て、プログラミング関連の記事や書籍を執筆するようになったようだ。そういう経験を活かし、著者は数少ない「素人の側に立った記事」を書ける人となっている。このような経歴をもつ著者にとって、「デザイン」の世界はひょっとすると「故郷」のようなところなのかもしれない。他のプログラミング関連書籍ではあまり見かけないようなリラックスした気分、ノビノビと気兼ねなく発言している雰囲気が本書にはある(逆に言うと、プログラマー寄りの読者には読まれないだろう、という気の緩み(笑)が少々見受けられる)。本書は、久々に「ホームグラウンド」に戻ってきた先輩から後輩へ贈る応援歌なのだろう。張り切ってるのがよくわかる(笑)。
ちなみに、本書の中で最も強く印象に残っている文言は、
JavaScriptは適切にデザインされたサイトにおいて
閲覧者に有益な情報をより視覚的に伝えるために
HTMLとCSSだけでは構成できないギミックを実装するもの
これが本書のポリシーです。
なるほどね。確かにそういうポリシーに基づいて解説されているJavaScript入門である。
ひょっとして、と思ったのは、「凝り過ぎたWebページ」を見たときに、Webデザイナーたちは「こういうユーザーを無視した技術ありきのWebページを
Webプログラマーが作る」とウンザリするのに対して、当のWebプログラマーたちは「こういうユーザーを無視したデザインありきのWebページを
Webデザイナーが作る」とウンザリしてるんじゃないのか、ということ。現実には「ユーザーを無視した凝り過ぎたWebページ」を作る制作者はプログラマーにもデザイナーにもいるんだろうけど、お互い相手方のせいにするんじゃないのか(笑)。
本書を含む三部作のようで、本書と同じ2011年に『HTMLとCSSで基礎から学ぶWebデザイン』が、2013年には『HTMLとCSSで基礎から学ぶサイトデザイン』が刊行されている。本書はHTMLとCSSとJavaScriptを「同時に学ぶ」という趣旨の本ではないので、HTMLと(特に)CSSに自信のない読者は(本書のコンセプトが性に合うなら)『HTMLとCSSで基礎から学ぶWebデザイン』を先に読んでおいた方が良いかもしれない。
本文300ページ程度(他に、まえがき、索引として5ページ)。

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