『スーパープログラマーに学ぶ 最強シンプル思考術』
吉田 塁(著)
2016年
ディスカヴァー・トゥエンティワン
☆☆☆
「『抽象』? 『具象』? 何それ?」というような人を対象に書かれた「抽象的思考術」(著者言うところの「モデルベース思考」術)についての本。有史以来、人が多かれ少なかれ皆やっていることについて述べている本なので、本書のタイトルに「スーパープログラマーに学ぶ」と銘打つのは詐欺的だと思う。一応、本書のスタート地点にはオブジェクト指向ソフトウェア開発の世界で用いられている「オブジェクト図・クラス図」があるのだろうが…。
「ものごとを構成する要素相互の関係についてジックリ考え、ものごとの本質を見抜きましょう」という「抽象的思考のスゝメ」的な内容の本。2〜3時間のセミナー・研修の内容を書籍化したような雰囲気があり、「講師のお話を聞く」というだけでなく、ある程度マニュアル化された手順に沿って「モデルベース思考」を身に着けていくワークショップ的な側面もある。
僕自身が最初にこういうこと(抽象と具象)について考えたのっていつ頃だったろう?と考えてみると…、大学の2〜3年生のときだっただろうか。大学の優秀な先生とそうでない先生(笑)の違いについて考えていて、優秀な先生は概念的なレベルの話と具体的なレベルの話との間を(両者を明確に区別しつつ)自由自在に行き来することに気が付いたのだ(本書でも「自由自在に抽象化と具体化ができるようになると、モデル化がスムーズになるだけではなく、モデルを使った問題解決能力、アイデア創出力が飛躍的に向上します。」(78ページ)とある)。高校生・大学生、新入社員のような「これまでこんなこと1度も考えたことがなかった!」という若い人にはいいのかも。
Amazonレビューの評価が非常に良かったので早速購入してみたのだが…、読んでみると非常にアリキタリな内容でガックリ(ただし、大事なところはシッカリ押さえられているとは思う)。本文を読んでも「はじめに」の冒頭5ページで得られるもの以上のものはそう多くはないので、「はじめに」を読んで「あぁ、こういう話か」とピン!とキた人はそれ以上読み進める必要はないと思う。
僕がこの本に対して多少意地悪な気持ちになっているのは(なってます(笑))、「騙された」感があったからだ。「スーパープログラマー」全く関係ないんだもん。およそ「言われたことをただそのままやればよい」という仕事以外に従事している人で「抽象的にものを考えたことがない」という人はいないだろうから、当然スーパープログラマー「も」抽象的思考をしているには違いないが…。ここへ来て急に「プログラミング・スキル」が「成功者の必須能力」として扱われるようになってきた時流に乗っただけのタイトルだと思う(Amazonの「なか見!検索」やKindle版の無料サンプルで冒頭部分を読んだのに、それを見抜けなかった自分が悔しい…。リアル書店で立ち読みしていれば絶対に買わなかった)。「まぁ、安い本だから」と大目に見るべきなのかなぁ。もし『最強シンプル思考術=モデルベース思考のスゝメ』みたいなタイトルだったら、もう少し冷静に本書の良いところを評価できたと思うのだが。
ちなみに、「ものごとの本質をモデル化して理解・説明する」ことの重要性と方法論について述べている本としては、僕は『
「伝わる!」説明術』(梅津信幸(著) 2005年 筑摩書房)を薦めている(「名著」だと思っているくらい)。
本文120ページ程度。

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