『中高一貫数学コース 数学1』
志賀 浩二(著)
2001年
岩波書店
☆☆☆☆
中高一貫校での使用を想定して編まれた(検定外)数学教科書シリーズ「中高一貫数学コース」の第1学年用「数学1」。通常の高校数学の「数学T」とは全く別物であることに注意。
本シリーズの特徴は、学習指導要領に縛られずに、中学・高校数学で扱う内容をその「つながり(関連性)」や「流れ」を重視して(「単元」ではなく)「コース」としてまとめているところ。第1学年用の「数学1」から第5学年用の「数学5」までで構成されている。第1学年(中学1年相当)用の本書では、代数を扱うAコース、幾何を扱うBコースの2本立てになっており(それらは同時進行的に教えられることが望ましいとされている)、Aコースとして「数についてのコースT(数の概念)」「式についてのコース(文字式の扱い)」「方程式についてのコースT(1次方程式・2次方程式)」、Bコースとして「図形についてのコース(三角形と円の性質)」「座標についてのコースT(座標平面と面積・長さ)」「座標についてのコースU(1次関数とグラフ、円の方程式)」といったトピックが取り上げられている。
以前、著者による「<生涯学習>はじめからの数学」シリーズ中の2冊『
数について』(志賀浩二(著) 2000年 朝倉書店)と『
式について』(志賀浩二(著) 2000年 朝倉書店)を読んだことがあり、易しい題材に対する洞察の深さに感嘆したことがある。今回偶然本シリーズの存在を知り、この著者の編んだ教科書ならきっと面白いハズ、と手に取ってみた。少し期待し過ぎの感はあったものの、前半1/3を過ぎた辺りからいよいよ面白くなってきた。「読み物」ではなく、数学の「教科書」で、こんなに面白い本をこれまで見たことがない。ただ…、数学好きの大人が読み物として独りで読む分にはいいが、実際に学校で教科書として使うにはいろいろ難がありそうに感じた(「難あり」と言うか「無理」と言うか(笑))。
まず、中学校1年生用と考えると、内容が「かなり」難しいのではないか、と思う。「数学が一番の得意科目」というような中学生が学校の教科書とは別の教科書も見てみたい、という場合、あるいは数学好きの大人が中学数学を「楽しむ」ために読むのには好適だと思うが…。授業で使うとなると、教師の力量がかなり求められるように思う。同じ中高一貫校向けの数学教科書としては、例えば『中高一貫教育をサポートする 体系数学』(岡部恒治(編) 数研出版)の方が使い易そうに思った。実際に授業で使われることは想定していないのかもしれない。
出題されている問題は少なめで、解答例も掲載されていない(別冊付録としての提供もない)。それらは通常の教科書に載っているような「練習問題」というよりも、本文の内容よりも更に一歩進んだ理解のためのヒント、考えるキッカケとして出題されているように思う(「数学がかなり得意な中学生」向け、と感じたのはそのため)。文字式の展開の方法を学んだばかりの中学1年生にいきなり高校数学で習うようなトピックを突き付ける鮮やかさには鼻血が出そうになったが(笑)、実際のところどの程度の生徒たちがついてこれるか…。
途中で気付いたのだが、普通の数学の教科書は、単元毎に、まず新しい概念を提示し、次いで慣れさせる、という方法をとっている。まさに「習うより慣れよ」と言わんばかりに、大量の練習問題を解かせる。ところが本書には、その「慣れさせる」というパートがない。最小限の法則性だけを示し、あとは学生に(脳味噌フル回転で)「考える」ことだけを求め、「学問」としての数学の面白さに気付かせようとしている。確かに、本書で出題される「問題」は、答えが出たときに(単に「答えがわかった」という以上に)それまでより視野が一段広がっているような良問が多いとは思うが…。やっぱり「学校の教科書1冊だけじゃモノ足りない!」というような数学の得意な生徒向けだろうなぁ。よく読んで、考えて、「ということは…」と自ら気付く、ための教科書。「教えて貰う」のではなく、「自ら考える」ための教科書。
僕は中学数学で最も難しくまた面白いところは最初に習うところ(「数」の概念)だと思っている(強いて言えば、ここに「算数」と「数学」の間のちょっとしたギャップがある)。まさに本書はそこから始まるのだが…、上述の『
数について』と比較するとやや味わい深さに欠けるように思う(そもそも学校の教科書に「味わい深さ」を求めるのが間違いなのだろうが(笑))。僕のような読者を満足させるためなのか、本書で扱っている内容を補い、より深く楽しむための副読本『中高一貫数学コース 数学1をたのしむ』(志賀浩二(著) 2001年 岩波書店)も本書と同時に刊行されている(『数学2』〜『数学5』についても同様)。教室で授業を受ける立場でも教える立場でもないお気楽な僕としては…、それぞれ単独で星4つ、2冊合わせて星5つといったところだろうか。
本文200ページ程度。

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