『間宮兄弟』
江國 香織(著)
2007年
小学館
☆☆☆
小学館文庫「え-4-1」。
雑誌「女性セブン」に半年に渡って連載され、2004年に単行本にまとめられた小説の文庫化されたもの。映画『
間宮兄弟』(森田芳光 監督 2006年)の原作。東京のマンションに男2人で暮らす30代独身モテナイブラザーズの間宮兄弟と、彼らと関わることになってしまった人々に起きる、半年間の出来事を坦々と描く。
江國香織という作家の名前は以前から知ってはいたが、正直読んでみようという気になったことはなかった。映画を観てこの人が原作者であることを知り、ふと原作を読んでみようかという気になった。映画の雰囲気がわりと好きだったからだ。
小説を読んでみると、映画が小説の雰囲気をうまく再現することに成功していることがわかった。また、単に「再現」したというよりも、原作よりもテンポも良いし(原作は文庫サイズで約300ページと結構長く、ドラマチックな事件が起きる話でもないので、途中でちょっと飽きかけた。前半は、映画よりも面白いと感じていたのだが…)、うまく笑いの要素も盛り込んでいて、映画の方がエンターテイメント作品としては1枚上手だと思う(そもそも原作小説は「エンターテイメント作品」ではないのだろう)。
では、映画よりツマラなかった、という評価になるのかというと、そういうわけでもなくて、映画とは異なる側面を楽しむことができた。小説では、映画ではわからなかったような、その場面その場面での兄弟の心情がわかる(文章によって記述されているのだから)。逆に言うと、映画では兄弟の心情そのものを直接描写することができないため、コメディ色を強めざるを得なかった、ということなのかもしれない。また、映画では2人は「似た者同士」といった雰囲気だったが、兄弟には様々な(ときには正反対の)相違点があって、兄弟の対比が小説の1つの大きな軸になっている。兄弟それぞれ趣味も考え方も違う、というところから、互いを思いやる兄弟愛が自然に描かれている。
この人の他の小説は読んだことがないので、他と比べて面白いのかどうかはわからない。そもそも僕は小説をほとんど読まないので、最近の他の人気作家の書くものと比べてどういう位置付けになるのかもよくわからない。ただ、思わずクックッと漏らしてしまうような記述には何度も出会った。
兄弟の感じている、世の中に対する居心地の悪さは、映画より強めに描かれている。でも、彼らには彼らのスタイルというものがあって、別にそれでいいんじゃないの、という話。映画ほど「ほのぼの」テイストの小説ではないけれど。
本文295ページ程度。

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