『GO』
金城 一紀 (著)
2007年
角川書店
☆☆☆☆
日本映画『GO』(行定勲 監督 2001年)の原作小説にして、第123回直木賞受賞作。2000年に単行本が、2003年に文庫本が講談社から刊行されているが、その後、2007年に角川書店から単行本と文庫本が刊行されている。僕が読んだのは角川文庫版で、裏表紙に「新装完全版(ディレクターズ・カット)」とあった。オリジナル版から増補・改訂されているのかどうかはよくわからない。
おそらく著者は人気作家と呼んで構わないような作家の1人で、やたら小説が映画化されているが、小説『
フライ,ダディ,フライ』(講談社 2003年)が正直面白くなく、その人気の秘密を知りたく思い一番の代表作を読んでみた。確かに面白い。
在日コリアンの男子高校生・杉原が主人公。高校入学以来23戦無敗の男として怖れられる彼の想いの丈と、謎の美少女(笑)・桜井との村上春樹チックな恋愛模様を交互に描いた、異色の青春小説。「青春とは、自分が何者であるかについて思い悩むこと」という意味で、青春小説。
ちょっと不思議な構成の小説で、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹 1985年 新潮社)を想い出した。2つの異なる物語が交互に繰り返される印象。暴力の世界に生きる杉原と、桜井とデートしている杉原が同一人物に思えないのだ。正直、出だしはあまり面白くなかったのだが、杉原の2つの側面が交互に顔をのぞかせる繰り返しが効果的で、徐々に引き込まれていった。物語の終盤、2つの物語が重なりそうになった瞬間、僕のボルテージも星5つに指が届いていたのだが、その後トーンダウンして星4つ。
面白いのだけど、著者の小説家としての力量はそれほど大きなものではないのではないか、という気もする。エピソードの断片の並べ方が悪いのか、相互の関連のつけ方が悪いのかわからないが、物語全体にウネリのようなものが感じられない。考えてみると、シンプルな起承転結のストーリー展開なのだけど、過剰に詰め込まれた主人公の想いが物語を埋め尽くしてしまっているように思う(逆に言えば、それが、切れば主人公の想いが溢れ出てくるような、この作品の魅力なのだろうとも思うが)。もちろん、勢いだけで書いたような小説ではなく、何を詰め込むべきかよく考えられている作品だとは思うのだけど…。悪く言えば、想いの洪水の中に、起承転結展開のラブストーリーを無理に組み込んで、何とか小説としての体裁を整えた、といった印象。
僕はこの話を恋愛小説だとは思わないのだけど、それは相手役の桜井という人間が見えてこないから。結局、最後まで見えてこなかった。全般的に、日本人の登場人物に人間としての全体像が与えられていないように思う。
「小説として面白かっただろうか?」と考えてみると、やや疑問に思う。つまり、この作品が小説ではなく、ノンフィクションやエッセイだったとしても同じだけ面白かったか、あるいは、もっと読み応えのあるものになっていたのではないか、という気もするのだ。主人公の一人称口調で記されている語りが、僕には著者の語りそのもののように感じられる。この話を一人称視点ではなく他の視点から書いて、それでも小説として面白い作品になっていたのだとしたら、著者の筆力はホンモノだと思うのだが…(ただし、この作品の魅力である「過剰さ」が失われてしまうだろうが)。
取り敢えず、映画を観てみないと…!!
角川文庫の「か-50-1」。本文235ページ程度。

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