『ロボット進化論――「人造人間」から「人と共存するシステム」へ――』
小林 宏(著)
2006年
オーム社
☆☆
「東京理科大学・坊ちゃん選書」の1冊。理科好きの中高生に日本の科学技術研究の最先端を紹介する、という趣旨のシリーズのようだ。ただ実際のところ、少子化時代の生き残りをかけた大学としてのアピール、という気がしないでもない。
『ロボット進化論』というタイトルになっているが、ロボット、あるいロボット研究の歴史を概説した本ではない。むしろ、著者の研究の紹介に焦点をしぼった本。基本的に、サイエンスライターの聞き手の質問に答える、という形式で話は進んでいくが、ときどき著者自身による補足が入る。
著者は、機械工学者として「実用的なロボットをつくる」ことにコダワリをもっているようだ。著者のつくるロボットは、自律型ロボットではなく、ロボットスーツのようなもの。人工知能研究が停滞している以上、自律型ロボットはしばらくはエンターテイメントの域を出ないと、著者は考えているようだ。「いつかアトムのようなロボットをつくりたい」というロマンを追い求めるのではなく、「今すぐ人間の役に立つロボットをつくりたい」ということなのだろう。
著者自身は、注目を集めるような人型エンターテイメントロボットをつくるのではなくて、地味でも実際に人間の役に立つロボットを開発・製品化し地道にアピールすることを考えている。そのために、大学発ベンチャー企業として「日本ロボティクス」という会社をつくったそうだ。著者の話の中には畑村洋太郎の「失敗学」的な話がよく出てくる。実用的なロボットの開発には大変な苦労が伴うようだが、1つ1つ問題をクリアしていく過程で、多くの技術が開発されていくという。そういった技術を直接ロボットとは関係ない製品に活かして製品化することまで視野に入れている。
ところで、『
制御工学の考え方』(木村英紀 2002年 講談社)にも感じたのだけど、工学者というものは、技術が発展することの負の側面というものを考えないものなのだろうか。単に考えが至らないだけなのか、考えようと思えば考えることはできるのだけど、そんなことを考えていたら先へ進めなくなるから考えないようにしているのか、たとえ考えていたとしてもそれを言わないだけなのか、考えた上でその負の側面をカバーするような技術を開発すればよいと考えているのか、どうもよくわからない。僕自身としては、「何ができたか」だけでなく、「どういうつもりでつくっているのか」にも興味があるので…。
そんなことを考えていたら、「あとがきに代えて」に「現在、日本では1年間に1万人近い人が交通事故で亡くなっています。すごい数です。しかし、自動車をなくせとは誰も考えません。その便利さを享受しつつ、なんとか事故を少なくしようと努力するのが人間の進歩なのです。」とあった。世の中に「自動車をなくせ」と考えている人なんていくらでもいるのになぁ、というのが率直な感想。こういう「進歩=善」という価値観にはどうも距離感を感じてしまうんだよなぁ。
本文135ページ程度。
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日本ロボティクス株式会社Web Page

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