『爆笑問題のニッポンの教養 ロボットに人間を感じるとき…… 知能ロボット学』
太田 光・田中 裕二・石黒 浩(著)
2007年
講談社
☆☆
NHK教育テレビで放送されている『爆笑問題のニッポンの教養』から生まれた企画本。第9回放送の「ロボットに人間を感じるとき……」の内容を書籍化したもの。年末に放送されていたダイジェスト版で石黒氏が登場していたのを知り、本放送は観ていないが買って読んでみた。かつて『
知能の謎』(けいはんな社会的知能発生学研究会(編) 2004年 講談社)を読んで感銘を受けていたからだ。
ダイジェスト版ではロボットCB
2の動く様子が放送されていて、これは凄いと思わず身を乗り出してしまった。当然の話だが、紙上ではロボットの動きはよくわからない。彼のつくるロボットは、その動きや表情を目の当たりにすることによって、それまで経験したことのなかったようなものが見えてきてしまうタイプのロボットだと思う。彼のロボットはそのリアルさが話題になるけれども、リアルで人間と区別がつかないから凄いのではなくて、ロボットだとわかっていても、それが人間にとって特別なある種の刺激を含んだものであれば、人間に対するのと同じような反応が自らの内に起こってしまうことを感じてしまう、そういう特別なロボットだと思う。だから、ロボットの動きや佇まいがモノクロ印刷の紙上ではよくわからないのは(上記「人間にとって特別なある種の刺激」が失われている)本当に残念。しかし、まぁそれは仕方がない。
対談からはいくつかのテーマが感じられたが、中心的なものは「ロボットの見た目は、我々が通常考える以上に重要」というものだったと思う。生物というのは、自分にとって意味のある刺激に選択的に反応するようにできているわけで、「人間のような見た目」というのは、人間にとってそういう特別な刺激の1つらしい(そりゃそうだろうと誰もが思うだろうが、誰もが思う以上に重要であるらしい)。太田も面白いことを返していて、名優の演技に共通するのは、演じている感情を演技者が実際に感じることではなく、見た目、つまり演技の型だという。
人間の研究をするためにロボットを開発する、という彼のスタンスについてももちろん述べられているが、これについては『
知能の謎』の方が面白かった。あるいは、僕はまだ読んでいないが、『アンドロイドサイエンス』(石黒浩 2007年 毎日コミュニケーションズ)を読むのがよさそう。彼の研究の面白いところは、ロボットをつくることそのものが目的ではない、というところ。本書でも、ロボットの技術的な話ではなく、基本的に人間についての話をしている。
石黒も「感想(あとがきにかえて)」で言っているけれど、爆笑問題の2人と石黒とがあまりに早く意見の一致を見てしまい、石黒があれこれ研究の土台となるようなアイデアについて説明せずに済んでしまったのが残念。わからない人に何とかわかってもらおうとやりとりする中から、アイデアを端的に示すようなうまい表現が飛び出してくるものだと思うから。僕としては、「知能や意識は、脳の中にあるんじゃなくて、環境との関わりの中で生まれてくる現象だと、僕は思ってる。感情も同じで、環境との相互作用の中で起きる現象。人間の脳は、ただの通信機だって考えたほうがいいのかもしれない。」なんて発言が面白かったので、そのあたりをもう少し掘り下げて語って欲しかった。
本書を読むと、同シリーズの『
人間は動物である。ただし……』(太田光・田中裕二・山岸俊男 2007年 講談社)なんて結構面白かったんだなーと思う。
本文120ページ程度。

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