2006/1/31  20:44

ホテル・ルワンダ ☆☆☆☆☆  映画感想 〜2007年

現実に起こった、これほど重大な事件を元にしていて、これほど凄い社会的意義のある映画が…エンタテインメントとしてもこんなに面白いなんて、ある意味ずるい…かもしれない。他の映画の立つ瀬がない。

「ザ・プレイヤー」と言う映画で、主人公が「ヒットする映画の8要素は、サスペンス、笑い、暴力、希望、ハート、裸、セックス、ハッピーエンド。リアリティは関係ない」と言っていたけど…この映画は、8つのうち5つをたっぷり備えていて(裸とセックスはない。笑いは…ちょっとだけ)、その上リアリティもあるという…とにかく、稀有な映画なのだ。

「ハラハラ、ドキドキする」、「家族愛に感動する」、「主人公に感情移入できる」、(この表現は嫌いだけど)「泣ける」、(これもありきたりな表現だけど)「元気をもらえる」、「知恵と機転で難局を切り抜ける爽快さを味わう」、「役者の演技を楽しむ」…すべての点で、それだけを売り物にした他の映画を霞ませてしまう。

とにかく、「本物だけが持つ圧倒的なパワー」を感じた。そのパワーの源は、「私の人生において、この映画を作るより重要なことはないと確信した」という、テリー・ジョージ監督の言葉につきるのではないかと思う。おそらく、スタッフ・キャストの多くがそういう思いを持って作った映画なのでは。パワーがあるはずだ。

ルワンダの大虐殺は、その重大さの割にはあまり知られていない。私も、虐殺があったことは知っていたし、衝撃的なニュース映像も憶えているけど…原因は理解していなかったし、3ヶ月間で100万人が殺されたという途方もない規模だったことも知らなかった。(なんとなく、数万人程度かと思っていた。…いや、数万人でも十分ひどいのだけど。)しかも、たった10年前のことなのだ!

だからもちろん、この映画には、その事実を広く一般に知らしめ、さらには現代アフリカの諸問題にも目を向けさせるという重大な社会的使命があるのだけど…でも、こういう表現から想像されるような、地味で暗い映画ではない。むしろ…まあ、「明るい」と言うと語弊があるけど…すごくポジティブなメッセージを発している映画だ。

この映画で一番印象的なセリフは、ホアキン・フェニックス扮するジャーナリストの「(虐殺の)映像がニュースで流されても、人々は『恐ろしいことだなあ』と言うだけで、ディナーを続ける」という言葉なのだけど…たしかに、私もそうだ。(それを恥じつつも…そいうところもなければ、人間生きてゆけない、とも思う。ごはん食べらないのは困るし。)

でも、もし現地に自分の知っている人がいて、命の危険にさらされているとしたら、話は別だ。だから、ニューヨークで5000人が死ねば一瞬で世界中が注目するけど、アフリカの小国で何万人も殺されていても、注目するのに時間がかかる。知人はおろか、「知人の知人」も、「知人の知人の遠い親戚」もいない土地だから。

この映画には、虐殺そのものの描写はあまりはっきり出てこない。むしろ、ドン・チードル扮する主人公の家族に焦点を当てている。見ている方は、主人公とその妻に感情移入しているうちに、「まるで現地に知り合いがいるような」気持ちになってくるのだ。これはむしろ、ドキュメンタリータッチで虐殺そのものを描くより効果的だと思う。

主人公ポール・ルセサバギナのキャラクターのせいもある。彼はホテルマンとしての誇りをもって「お客様」を守り抜き、長年培った賄賂の技術と、お世辞も脅しも取り混ぜた話術で、1200人の命を「つなぐ」。

日本には「人の心は金で買える」と豪語して物議をかもしている人がいるけど…問題は「金で買えるか」どうかではなく、「あなたには買えるのか」ということなのだ。本当に重要な局面で、交渉の成否に多くの命がかかっているような状況で「人の心を買う」には、相当な技術と根性がいる−と、この映画は教えてくれる。なまじな覚悟では買えないのだ。

ほんとうに大事なこと(惚れた女性とお近づきになるとか、たまたま自分のホテルに逃げてきた人々の命を救うとか)には、お金を出し惜しまない。また、いくらかかるか把握する能力がある。真に優秀なビジネスマンなのだ。

主人公以外では、ニック・ノルティの国連軍大佐(オリバー大佐)がよかった。民兵が手当たり次第に人を殺している状態で、国全体を300人で守れ、発砲はするな、と無理難題を言われつつ孤軍奮闘している姿がカッコいい。「上層部に無理な任務を強制されたヒーローたちが、少人数で奮闘」というアクション映画は山ほどあるが、しばらくは「オリバー大佐に比べたら…(あれは現実だし)」とか、比較してしまいそう。

さて…アカデミー賞フリークである私は、3部門にノミネートされていたこの映画のことはもちろん知っていたし、観たいと思っていました。

しかし、観たい観たいと言いながらつい見逃す映画が多い中で、どっこいしょと腰を上げて嫌いな渋谷へ足を運ぶ直接の動機になったのは、この映画がインターネットの「公開を求める署名運動」によって日本公開されたという事でした。そういうことなら、ささやかながら協力したいと思うし、何より、そういう運動の対象となった映画が面白くないわけないからです。

この映画の日本公開がなかなか決まらなかったのは、「地味な社会派の映画だから」かと思っていたのですが、そういうわけでもないようです。「賞も取って、絶賛されて、アメリカではヒットもしたのに、どうして公開されないんだ!」と思っていたけど…「アメリカでヒットしたのに」ではなく「したからこそ」公開が難しかったようです。つまり…値段が高かったのですね。限定公開を前提に買うには高すぎた…らしい。

もしかして、アメリカで超大ヒットしたコメディ「Wedding Crashers」や「The 40-Year-old Virgin」がなかなか日本公開されないのと似た理由かもしれない。社会派ドラマが日本で冷遇されていると言うけど、コメディの扱いに比べたらマシなような…(「ホテル・ルワンダ」ならいいけど、「『40歳の童貞男』の公開を求める署名運動」だと…ちとカッコ悪いかも?や、誰かがやってくれたら、喜んで署名させていただきますが。)

それにしても…「出演者の知名度が低いから拡大公開できない」と言う日本の配給会社って、映画の内容の面白さを伝える自信はまったくないのね。伝えられるのは「誰が出ているか」だけなのか…

失礼、話がそれました。

渋谷のシアターNは連日満員御礼だそうですが(混んでることを予想して水曜と週末を避けたけど、月曜でも満席だった)、元が高いんじゃ、この規模のコヤだけではまだまだ赤字かもしれない。全国で公開予定の映画館がどんどん増えているようなので、何よりです。全国の映画館がいっぱいになって、もっともっと上映館が増えるといいですね。

だらだらと書いてしまいましたが、まとめると…とにかく、見て。面白いから。




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