2007/9/3  22:16

シッコ ☆☆☆☆  映画感想 〜2007年

マイケル・ムーアの映画の感想が書きにくいのはたぶん、映画自身が十分に言いたいことを言い尽くしているので、他に付け加えることがないからだろう。とにかく、見て下さい、としか言えない。

しかしまあ、それだけではなんなので、感想をひとことで言えば…「話には聞いていたけど、これほどヒドイとは。

ちょっと、マイケル・ムーア自身もそう思っているんじゃないか、という気もしました。「アメリカの医療制度のヒドさ」をテーマに映画を撮ろうとしたけれど、調べてみたら思った以上にヒドかった、と。いつもの鋭い皮肉や毒っ気が影を潜めているように見えるのも、そのせいかもしれない。

病人をわざわざキューバに連れて行ったのも、はじめは「あんたらが常々ヒドイ国だと言っているキューバの方が、医療に関してはマシじゃないか」という、ムーア一流の強烈な皮肉のつもりだったのでは。ところが、行ってみたら本当にキューバの方がずっとずっと良くて、患者が「こんなにちゃんと診察してもらったのは初めてだ、ありがとう」と涙を流す事態になり、皮肉や毒を通り越して大マジになってしまった。あれ、ムーア自身もちょっと予想外だったのかも。

この映画を見て非常に強く感じたのは、医療の問題というのは、世の中の全てのことの基盤になっているということだ。人間、何をするにしても、健康な体あってこそだものね。

そのせいかもしれないけど…この映画を見て、今までに見てきたアメリカ映画・ドラマの中のもろもろの事が、改めて実感として納得できたりしました。

「インサイダー」で、喘息の娘がいるワイガンド博士が、タバコ会社からの医療費支給を打ち切られるのを怖れて会社を告発するのをためらっていたこととか。「恋愛小説家」で、リッチな売れっ子画家だったグレッグ・キニアが、強盗に襲われて入院したとたんに破産して、人生すべてガタガタになってしまったこととか。

テレビの「ER」で、「緊急」救命室のはずなのに、どう見ても慢性疾患の人々がいつも待合室でうろうろしている理由とか。「デッド・ゾーン」第4シーズンの「ダブル・ヴィジョン」で、息子が脳死状態になってしまった父親が、保険会社の担当者と医者を狙撃しようとした訳とか。それから、「MR.インクレディブル」で、ミスター・インクレディブルことボブ・パーの「転職後」の職業が保険会社の審査員であった意味とか。

切実に保険金を必要としている人…それも、イザという時には保険金がおりると信じてせっせと掛け金を払ってきた人々に、いろいろ理由をつけて「あんたにはわが社の金はやらねえよ」と突っぱねる仕事。スーパーヒーローとしての活動を禁止されたボブが、嫌々やらされている仕事がこれだったのは、これがヒーローとして人を助けることとは対極にある仕事だからなのかも。困っている人を見捨てれば見捨てるほど、「コストを削減した有能な社員」として評価されるなんて…世の中に、こんなみじめな仕事はない。

最初の方に出てきた元保険会社の相談員の女性が、かつて突っぱねた人々を思い出しながらはらはらと涙を流しているのを見て、思わずもらい泣きしてしまいました。ええもちろん、彼女よりも突っぱねられた病人のために泣くべきなんですけど…なんか、彼女の痛みもわかっちゃって。

マイケル・ムーアはこの映画の中で、「国民皆保険は『社会主義的』だと言うが、米国だって『社会主義的』制度は持っている。消防署は火事が出れば無料で火を消すじゃないか。」と言っているけど…「自立自助」がモットーのアメリカでも消防車はタダなのは、「この家の人は料金が払えないから」と言って火事を放っておいたりしたら、火が燃え広がって、町中が大変なことになるからだろう。

でも本当は、病気や貧困ってのも火事とおんなじで、他人の事だと思って放っておいていると、どんどん延焼して社会全体に被害が広がるんじゃないか…と思った。

日本にとっては、これは「対岸の火事」ではなくて「他山の石」とすべき事例なのでしょうね。

もうひとつ、忘れないうちに…字幕で、金額の話が出るたびに日本円に換算した数字を併記しているのはグッドジョブ!でした。「ひええ、XXXドル(XX円)もかかるのか!」「いいなあ、XXポンド(XX円)しかかからないのね!」というのがカンジンな映画なのだから、高さ・安さの感覚がぱっと分かった方がいいものね。日本に住んでいる身には、「アメリカでは100ドルもする薬が、ここでは5セントなんて…」より、「アメリカでは12000円もする薬が、ここでは6円なんて、なぜなの、馬鹿にしてるわ!」と言って流す涙の方が、よりダイレクトに心に響くのだ。



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