2009/9/21  22:27

オーブリー&マチュリン「21」(その8)  パトリック・オブライアン

群集の歓声に迎えられて登場した、背が高く威厳に溢れた黒人のカリスマは...もう誰だかお分かりですね。彼の名はバラク・オバマ...ではなくて(笑)、ジャックの息子のサム・パンダ神父でした。

いやしかし、私はサムが11巻1章で初めて登場した時、「ジャック・オーブリーにそっくり」な黒人青年のビジュアルがうまく想像できない、と書いたのですが...このシーンを読んでから、なんだか知らないけど、彼をビジュアライズしようとするとオバマ大統領の顔が浮かぶようになってしまって。ブエノス・アイレスの街にたちこめていた不穏な空気を一瞬にして払ってしまう、限りなくポジティブなカリスマ性、というイメージですかね。サムもオバマさんも、純粋白人と純粋アフリカ人の間の子供という点が共通しているし...オバマさんは父親がアフリカ人ですが。

オバマさんも、最近は健康保険制度改革の件で苦労しているようですが、がんばってほしいものです。

さて、サム・パンダ神父は、ジャックが南アフリカで士官候補生だった頃(in his long-legged youth - 脚の長い青年の頃、と書かれています)、たぶん16歳か17歳かそこらの頃、サリーという名の現地の女性との間にできた子供です。彼女を艦内に隠していたことが原因でジャックは平水兵に降格になったのですが、別れた時に彼女が妊娠していたことはまったく知らず、11巻で聖職者をめざす青年に育った息子が突然現れてびっくり、だったのですが...その後サムは、カトリック教会内にコネのあるスティーブンのとりなしで正式に神父になりました。(当時、非嫡出子が神父になるには特別の許可が必要だった。)

この前にサムが登場したのは16巻(Wine Dark Sea)9章で、その時はブラジルからペルーに赴任したところだったのですが、持ち前の頭の良さと勤勉さでカトリック教会内でめきめき出世しているようでした。今はペルーからアルゼンチンに赴任していて、まだ若いのに教皇特使という称号まで手に入れて、もうすっかり司教への道まっしぐらという感じ。

当時はもちろん、黒人に対する差別は今とは比べ物にならないほどあって、いくら優秀でも一般社会で黒人が出世したり、広く人々の尊敬を集める地位についたりすることはまずあり得なかったのですが...それでも聖職者というのは「特別」だったのですよね。お金や世俗的な権力とは無縁と見られていたからでしょうか。むしろ教会としても、人口の多くを占める黒人層にアピールするために、黒人のサムを取り立てているということもあるようです。白人の信徒とっても、聖職者であれば、黒人が上に立つことにも抵抗がないようです。

もちろん、本人の資質も出世の大きな理由でしょうけど。この、天性のリーダーシップっていうのは、やっぱりジャックの血筋なのかなー。

サム・パンダ神父は、集まってきた漁船たちに向って聖水をふりまき、祝福の仕草をしました。儀式が終わると、彼はボートでまっすぐサプライズ号に来て、父親の前にひざまずいて足に触れる挨拶をしました。「サム、変わってないな。」ジャックは感動の面持ちでそう言って、夕食を一緒にする約束をすると、なんとか泣き出さずに威厳のある顔を保っていられる間に艦長室に駆け込むのでした。

さて、この一部始終は、もちろん周囲の漁船たちから見られていたので...サプライズ号は「罰当たりな新教徒たちのけしからん船」から、「教皇特使様がキャプテンに挨拶したすごい船」に一瞬にしてランクアップしたのでした。

2009/9/6  23:27

オーブリー・マチュリン「21」(その7)  パトリック・オブライアン

ブエノス・アイレスの港に反プロテスタント感情が広がっていると聞いて困ったジャック。つい、「早くサフォーク号と艦隊が来ればいいのに、そうしたらもう、この先何万海里もペイピスト(カトリック教徒の蔑称)顔なんか見ずにすむのになあ!」とぼやいてしまい...すぐ隣に当のペイピストのひとりが立っているのに気がついて、「ごめん、悪気はなかったんだ」と謝ったりしてます。スティーブンももう慣れていて、気にしてないようですが。
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2009/9/2  22:44

オーブリー・マチュリン「21」(その6)  パトリック・オブライアン

南アフリカ艦隊と合流するため、アルゼンチンはラプラタ河口のブエノス・アイレスに到着したサプライズ号ですが、今までの航海が順調すぎたために、まだ艦隊は到着していません。

港は妙に静まり返り、緊張した雰囲気で、心配したジャックはスティーブンたちを偵察に送り込み、礼砲が返礼されるかどうかを確認してもらうことにします。しかし、ちょうどそこに検疫所のボートが来て、スティーブンが役人に対応します。

ここでちょっと妙なのは、検疫所の医者が「ポルトガル語の話せる人は?」と聞き、スティーブンが「ラテン語なら話せます」と言って、ラテン語で対応することです。はて、アルゼンチンはスペイン語では??ブラジルと間違えてない?

もしかして当時はポルトガル語が話されていたのかな?と、ざっと調べてみたのですが、そんなことはないようです。

実は他にも、この検疫所のボートのことを「リオのボート」と書いているところもあり...どうやらオブさん、この舞台をブエノスアイレスにするかリオデジャネイロにするか迷っていて、ちょっとごっちゃになっているようです。チェックなしの初稿ならではの混乱でしょうか。

さて、検疫所の人から「礼砲の返事は大丈夫」と確約を得たものの、彼は気になる情報を伝えてゆきました。どうやら昨夜、アメリカはボストンからやってきた「新教徒」の団体が騒ぎを起こして、「一時に一人の妻しか許されないなんて馬鹿げている、ソロモン王を見ろ。ローマ教皇(法王)なんぞくそくらえ」などと、夜中じゅう騒いでいた、というのです。
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2009/8/22  22:12

オーブリー・マチュリン「21」(その5)  パトリック・オブライアン

マゼラン海峡から、「1万1千人の乙女岬(Cape of the Eleven Thousand Virgins)」(しかし、すごい名前だな)を回って、南米の大西洋側に出たサプライズ号。

これまでの航海は天候に恵まれた気持のよいものだったのですが、ひとつだけ問題は、補給のために立ち寄るアルゼンチンの港が、きわめて非友好的なことです。

イギリス軍は1806年と1807年にブエノスアイレスとモンテビデオに侵攻しているので(アルゼンチン側が撃退した)、反英感情が強いのも、まあ当然といえば当然なんですけどね。アルゼンチンとイギリスって、昔から仲が悪いのね...フォークランド紛争や、マラドーナの「神の手ゴール」に至るまで。
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2009/8/17  21:30

オーブリー・マチュリン「21」(その4)  パトリック・オブライアン

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カタールのブレゲの広告。20巻「Bule at the Mizzen」の一節が引用されている。

原稿の3ページ目から6ページ目ぐらいまでは、例によって前巻のまとめ。


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