〜 未来へ星を紡ぐキミたちに捧ぐ 〜
梅雨入り前の澄んだ青空と憂鬱な曇り空が交錯する、
そんな6月初めは、ある午後のひと時のお話です
星を眺めるには少々時刻が早いかな?・・・でもね・・・
池の畔の古びたベンチに一人の少年が腰かけて、
誰を待つ事なくぼんやりと水面を眺めていました
片想いのあの娘の気持ちもこれだけいっぱい
咲いていればしばらくドキドキしていられるかな?
緑色のスケートリンクをくるくるすいすい急旋回
たった一人のスタンディングオーベイション
芸術点なら負けないとばかり、深緑の額縁のスクリーンは
刻一刻と移り変わる空と雲のグラデーションを映し出します
緑に染まった観客席からサワサワサワと拍手が起こると
それに応えるようにふんわり雲からポツリポツリと贈り物、
水面に大きな輪っかや小さな輪っかが浮かんでは消えます
少年が「わぁ〜」っと感嘆の声を漏らそうとした時でした
「素敵なショーをありがとう、少し元気が出てきたよ!」
少年が驚いて振り向くと、すぐ側には小さな男の子
つんつるてんのズボンを履いたクリクリおめめの男の子
「キミ、どこから来たの?」
うつむいて山の方を指差す男の子
「もう日が暮れるよ、ママが心配するからお家に帰ろう」
すると男の子は首を横に振って、
「ママとはぐれちゃたの、ずっと捜しているんだけど・・・」
「そうか、じゃあおにいさんと一緒に捜そうか!」
そう言うと、少年は男の子の手を引っ張って、
腰かけていた池の畔のベンチから立ち上がりました
「そう言えば、まだキミの名前を聞いていなかったね」
「ボクは・・・」
男の子はしばらく空を見上げてから言いました
「スピカっていうんだ」
少年も空を見上げると、男の子に微笑みました
それまで寂しそうだった男の子も、少年の方を見てにっこり
雲間から空がのぞく初夏の日暮れには少し時間があります
大きな影と小さな影、ふたつの影が仲良く手をつないで、
爽やかな風が抜けていく池の側の坂道に伸びていきます
一軒の細長い家が坂道に沿うように建っています
「スピカ、お腹が空いただろう」
男の子は目をまん丸にして少年の方を見ています
「ここでは飛びきり美味しいご飯が食べられるんだ!」
少年の目はキラキラと輝いていました
「だってここは・・・ううん、ここでご飯を食べよう!」
男の子は嬉しそうに頷きました
STARNET A R K
まっ白な壁とまっ黒な扉のお家です
目の前にはたくさんの緑が植えられていて、
まるで気持ち良さそうに背伸びをしているみたい
「扉の脇の黒い椅子、僕の家には白いのがあるんだよ」
少年は男の子にそう言うと・・・
「階段を上がって中に入ってみよう」
どっしりとした石の階段を二人並んで上がります
まるでお父さんのように頑丈です
そしてお母さんのように温かです
階段を上り切った時、男の子が言いました
「そうだ・・・ボクもおにいさんの名前を聞いてなかったね」
「おにいさんかい?・・・そうだなあ・・・」
そう呟いて上を向くと、突然男の子を見て言いました
「そう、アルクトゥールスっていうんだ!」
「アルク・・・」
「いやいや、“おにいさん”でいいんだよ」
少年は少し照れながら付け加えました
大きな扉をくぐってカフェの方に進んだ二人の目の前には
まるでそよ風が吹き抜けていくような空間が広がっています
清々しさでいっぱいのまっ白な空間を目の当たりにして、
二人は歩き疲れていた事などすっかり忘れてしまいました
一段高くなった場所はまるで個室のようになっていました
自由に行き来のできるとっても開放的な空間なのに
下のスペースとは雰囲気が全く異なっているのです
まるで光と影によって仕切られているように・・・
木と土と石にゆったりと囲まれた空間・・・
仄かな橙色の明りが優しく照らす空間・・・
壁や柱や天井はみんなまっ白に塗られています
この空間に存在している全ての“色彩”は、
自然が作り出す純粋な色に満たされています
だからでしょうか?・・・
窓から見える外の緑がとても爽やかに感じます
付き当たりにあった長椅子のあるテーブルや・・・
今はお休み中ですが・・・
暖炉を囲んでの食事は家族の団らんにピッタリ!
ほらっ、ここにも可愛らしい“家族”がいました
大きな“パパとママ”がちっちゃな“ボク”を守ってくれて・・・
男の子は何も言わずにじっと眺めていました
少年がぼんやりと窓の外の緑に見入っていると・・・
「・・・おやっ?」
「ご飯を食べたらあの坂道を上ってみようか?」
「・・・うん!」 男の子に明るさが戻りました
咲かない花はありません!!
今はまだつぼんでいるだけなのです
華麗に花開く瞬間を夢見ながら・・・
「一番奥の、あの席にしようか」
そう言って少年は男の子の手を引きました
「まるでロケットみたいな椅子だね」
男の子が思わず口にすると、少年は・・・
「そうさ、ここに座ればお星さまの願いも叶うんだ、さぁ!」
男の子はチョッピリ嬉しくなって椅子に腰かけました
“ベジタリアンの雑穀カレー”
二人は野菜たっぷりのカレーを注文しました
少年はしばらくの間、このカレーを見つめていました
少年にはこの野菜のカレーに思うところがあったのです
男の子はというと皿が置かれるや否や一心にムシャムシャ
それを横目で見ていた少年も、笑顔でスプーンを取りました
「土星の輪っかに半月に・・・ほうき星みたいなにんじん!」
楽しそうにはしゃぎながらモリモリと食べる男の子の側で
少年は皿いっぱいの色鮮やかで艶やかに潤んだ野菜を
やさしく守るようにそっとスプーンにのせて口に運びました
ひと口ひと口大事そうに噛み締めるのです
ジューシーで、新鮮で、シャキッとして、
そして・・・なんて甘いのでしょうか!!
「この野菜たちは、僕の・・・」
ピリリとした辛さの中にも野菜の酸味や甘味、コクが
ギュッと凝縮されたカレーを風味豊かな古代米にかけて・・・
少年がひと口ずつ味わって食べているのとは裏腹に、
男の子の皿は見る見るうちにキレイになっていきました
“ケーキ&コーヒーのセット”
“豆腐のティラミス”
「これ、本当にお豆腐みたいだよ・・・ふんわりで・・・」
「うん、で、しっとりなめらかで、甘いソースとマッチして・・・」
褐色のスポンジと淡い地肌にココア色の屋根、
一番てっぺんにちょこんとついた緑の葉っぱ
まるで、この建物みたいだと少年は思いました
お腹も満足の二人はあの坂の上に行ってみる事にしました
カフェの反対側には器や衣服を売っているスペースもあり、
窓際には何とも不思議な形の椅子が整列していました
緑でいっぱいのお店の塀から鮮やかな赤い花が
顔を伸ばして二人を見送ってくれました
Z O N E & R E C O D E
小高い丘の頂上には、ふもとの建物とは趣きの異なった
木の板を張り巡らせた大きな屋根の家が建っていました
頂上の少し手前にはたくさんの薪が積まれていました
「僕も兄さんの薪割りの手伝いをしなくちゃなぁ」
「すみません、誰かいませんか?」
この土地に代々受け継がれてきた村の診療所といった
雰囲気の建物の入口に恐る恐る声をかける少年・・・
「どうぞ、中にお入り下さい」
中から非常に穏やかな声がしました
中に入ると太い梁が頭上を覆う高い天井の土間の空間に、
中央には大きな囲炉裏があって鉄鍋が下げられていました
梅雨のじめじめした時期なのに、何て爽やかなのでしょう!
先ほどのカフェでも感じましたが、この空間の中にいると
心地良くてやさしい空気の流れをゆっくりと感じるのです
さらに隣りには、
“野草茶寮”と名付けられた部屋があり、
囲炉裏と一続きのゆったりとした空間になっていました
「お茶の良い香りが澄んだ空気と一緒に広がって・・・」
少年がこの清々しい空間でうっとりとしている時でした
「もうそろそろ時間がやって来た」
「お前がここまで付き添ってくれたから行く事ができた」
「もう両親の元に帰れるぞ」
「えっ、スピカ、今何か言った?」
茶寮の素敵な空間にすっかり夢中になっていた少年は、
ふいの言葉にハッと我にかえって元の場所に戻りました
声がしたと思しき入り口の所には棚があるだけで、
その上で動物の置物がある一点を見つめていました
「スピカ、そっちの部屋にいるのかい?」
少年は茶寮の反対側の部屋に行ってみました
テーブルの上には食器が綺麗に並べられていました
「兄さんも毎日こうやって並べるんだ」
外套掛けに古びた小さなランドセルが掛けてありました
「スピカはまだ小学校にも行ってないのかな?」
辺りを見回しましたが、男の子の姿はありませんでした
男の子を捜していた少年は年代物の地球儀を見つけました
「そう言えば、僕の家にもこんな地球儀があったなぁ」
「兄さんと一緒にくるくる回していたっけ・・・」
「もう世界中全部まわったから今度はお星さまだね!」
「そうしたら、本当に手に入れるんだもんなぁ・・・」
少年が地球儀に手をかけたその時でした
少年はうっとりとした気分になり、まるで夢でも
見ているかのように体がふわふわとしてくるのでした
少年は最初にいた池の畔のベンチで横になっていました
フッと立ち上がってみると雲の間から太陽が出ていました
男の子の姿はもとより坂道沿いの白い建物も
丘の上に続く道も全く見当たりませんでした・・・
「ここではなかったのかな、兄さんがいたカフェは・・・」
どうして隣町までやって来たのか思い出せずに、
また、確か夢を見ていたような気がしていたのに、
何も思い出せないまま夕暮れの田んぼ道を走りました
「日が暮れるまでに家に帰らないと兄さんが心配するぞ」
「雲が晴れたら兄さんと一緒に星を見るんだ!」
「でも今日、とても綺麗な星を見た気がするんだよなぁ」
6月に入って本格的な梅雨の時期になってきましたね
もし雲の切れ間から澄んだ星空が見えるようでしたら、
夜9時から10時頃、南から西の空、北斗七星の近くに
大きく輝く二つの星を是非とも捜してみて下さい
いつも寄り添うように一緒に動いていく星です
ゆっくりと、キラキラ輝いて・・・
STARNET
栃木県芳賀郡益子町益子 3278-1
0285-72-9661
平日 11:00-18:00 土日祝 11:00-20:00
定休日 金曜日(第一週は木・金曜日定休)
http://www.starnet-bkds.com/
今回は特別の許可を頂きまして撮影致しました
スタッフの皆さん、本当にありがとうございました
それから“料理長さん”へ
貴方のお陰でCindyは此処まで来ることが出来ました
もう、思い残す事はありませんので、頑張って続きを
綴っていきたい(いける)と思います
本当にありがとうございました!!