〜 赤いペリカンの物語 (scene 2 ネコヤド大市) 〜
真っ赤なペリカンを追い求めて
「根古屋路地」に
やって来た僕は、月に一度だけ催されるこの路地の
祭りである
「ネコヤド大市」に参加する事にしていた
なぜなら夜の間しか見る事の出来ないと
言われているこの赤いペリカンが白日の下に
姿を現すのが、唯一この大市の日であるからだ
さて、穏やかな冬の天気となった今日、
青空の中には白く眩い日差しの太陽が
既に僕の頭上のはるか上空にあった・・・
時刻は正午になろうかという頃、
そう、市は既に始まっていたのだった
路地の脇にはこの日の市の予定を告げる
掲示板がさり気無く立てかけてあった
お世辞にもしっかりしたとは言い難い
古木の板は端の方が朽ちかけていたが、
却って市の重みを醸し出している気さえした
“ヤツ”が直ぐに見つかるとも限らないし
市はまだ始まったばかりだったので、
とりあえず辺りを散策してみる事にした
静寂に包まれていた昨日とは打って変わり
路地全体を埋め尽くす人たちで賑わっていた
そして、ここにいる誰もがが非常に楽しそうで
満足感や期待感に溢れた表情を見せているのが
この手の催しに慣れていない僕には印象的だった
この市を楽しみにしているのは勿論大人だけでは無い
絵本の中からやって来たかのような可愛らしい少女や
ザリガニ取りに夢中になっている元気いっぱいの少年
この土地の、近隣の、そして遠方からも訪れる人々の、
老若男女を問わず今この場にいる全ての人々の
何よりも待ち望んでいた楽しみなのだった
そんな市では随所で様々なイベントが行われていた
周辺の店や市に縁のある職人たちの逸品による
チャリティーが、この日は行われていた
路地を進むと突き当たりで右に折れるのだが、
その曲がり角には市のメイン会場の一つでもある・・・
・・・
“花蓮”がある・・・
“花蓮”の敷地を囲っているブロック塀のすぐ手前に
置かれたデスクには、市で出される職人の作品の一部や
食堂で供される料理などが今まさに並べられるところだった
柔らかな色彩が可愛らしい花のアクセサリーは林檎の
鮮やかな紅色と共にデスクの上を華やかに彩っていた
さらに・・・
アンリロ 「Xmas ランチ BOX」&「スコーン」
昨日食して感動を覚えたあの食堂は
この日の為に“お弁当”を準備していた
“お弁当”を手にした方の一人一人が
思い思いの場所で心と体を満たしていく・・・
さらに素朴で飾らないのに忘れる事の出来ない
最高の思い出を与えてくれる“焼き菓子”まで!!
そうか、この素敵な“テイクアウト”を目当てに
訪れる人も少なくないと聞いていたが・・・
実物を目の当たりにして十分納得が出来た僕だった
“花蓮”とはその敷地を古びたブロック塀に囲まれた、
昭和の田舎の面影を色濃く残す平屋の日本家屋である
「根古屋路地」のコミュニティーセンター的な存在で、
大市の他にも不定期でのイベントが催されているとの事
建物の中が気になったのだが、庭の方で何やら
軽快なリズムと共にヴァイオリン(?)の奏でる
心地良い旋律が聞こえてきたので向かってみた
Pig on the tree という演奏家たちによって、
本日の祭りを祝福する音色が高らかに鳴らさせていた
だが、僕にとっての祝福のメロディーはまだ・・・
“花蓮”の中に一たび入ってみると・・・
そこは魅力的な光で満ち溢れているようだった
Delicious Clover
板張りの床にどっしりと重厚感のある柱や梁が
剥き出しまま縦横に張られた様は、
歴史を感じさせる日本の建築だが・・・
この、仄かなオレンジの明かりの中で妖しい輝きを
見せている、可愛らしくも煌びやかなアクセサリーは
どこかエキゾチックな雰囲気さえ漂わせていた・・・
この全てが作家による一点ものとなっており
立ち止っている人たちも目を輝かせて吟味していた
この大市の主人公は、勿論、ネコ様なのだ
他にも野菜を売る店や革製品、雑貨など・・・
このお世辞にも広いとは言えない空間に、
多種多様な職人が店を構えていたのだ
それはまるで、モロッコのマラケシや
トルコのイスタンブールの旧市街地にある
東洋と西洋の入り混じった一種独特な様相を
呈したマルシェに迷い込んだかのようだった
そんな気分のまま、建物の一番奥へと足を進めた
ジャンク&レトロ雑貨 Re−Born
いつの時代の、そして世界の何処からやって来たかも
覚束ない、まさに打ち捨てられたかのような品々
しかし、どの品にも目にし、手に取った瞬間、
まるでこの場にやって来るまでのストーリーを
連想させずにはいられないような趣きが感じられた
この店の主人なら、“ヤツ”を知っているかもしれない
そう思った僕が近づいたその時だった・・・!!
Cindy!! おまえ、何故ここに!?
なになに、以前来て居心地が良かったので
また休暇をとってやって来ただと・・・!?
じゃあ、僕の仕事に協力しろと言いかけたが、
この稼業は契約外の協力関係は結べないのであった
Cindyと別れた僕の目の前には・・・
この大市の中心人物の二人が談笑していた!!
(許可を得て掲載させて頂きました)
“ヤツ”の情報は得られなかったものの、
素敵な話を聞かせてもらい、何よりこのような
素晴らしい催しを定期的に開催させている二人の
そして、此処に関わっているスタッフの皆さんに
感謝の気持ちでいっぱいになった僕だった・・・
“花蓮”を後にした僕は、とりわけ賑わいを
見せている方に向かう事にした
AN RIZ L’EAU
そう、昨日食事をとった食堂にやって来たのだ
ちっちゃな机とちっちゃな木の椅子
落ち葉に柿に・・・秋の恵みがキミの先生
Peace・・・Smile・・・
学校では学べなくなっちゃったのかな?
この白い扉の向こうから一際賑やかな歓声が
聞こえてきたので、中に入ってみる事にした
食堂はこの扉の左右で全く異なった側面を持っていた
先日食事をした、可愛らしい
“白の空間”と・・・
この落ち着いた雰囲気の
“木の空間”
その“木の空間”は昨日までの静かなダイニングが
嘘であるかのように人影でごった返していた
まるで演劇小屋に来ているかのような佇まいの中、
人ごみをかき分けて前方へと進むと、視界の先には・・・
奇術師が摩訶不思議な幻術を披露しており、
観衆から大きな喝さいを受けているところだった
しばしその妙技に見とれていた僕だったが
“ヤツ”の気配が感じられなかったので
この場を後にする事にした・・・
更に食堂の一角では職人がお菓子作りを実演していた
表のデスクで見かけた美味しそうな「スコーン」が
目の前で捏ねられ、見る見るうちに焼き上げられていく
どうやらこの食堂にも“ヤツ”は居なかったようだった
焦りを感じ始めた僕は、食堂を出たすぐ目の前の
市の日に開く茶屋の出店で少し休憩をとる事に決めた
栗の実珈琲
目の前でコーヒーを淹れてくれる・・・
そして、それを店の前ですする・・・
祭りならでは光景じゃないか!!
「スコーン(抹茶あずき)」&「泡立ちブレンドコーヒー」
ホロホロと崩れてくる素朴な味わいのスコーンは
ほのかに香る爽やかな抹茶の風味が心地良くて
中々見つけられない焦りや不安が和らぐようだ
さらに、この茶屋でも売られている専用のマシーンで
淹れた一杯のコーヒーの、紙コップから直に手に
伝わってくる熱の感触は、冷めかけた僕の決意を
再び呼び覚ましてくれるようだった
快晴の午後の日差しの下にいるとは言え、
12月も半ばになる屋外は十分に肌寒い
だが、冷たいベンチに腰掛けていた僕に
温かさを安らぎをそっと与えてくれる・・・
“栗の実珈琲”は、そんなひとときだった・・・
歓喜のフィナーレを迎えてしまったのだろうか?
楽団の姿はもうここには無かった・・・
そう、市は終焉を迎えようとしていたのだ
どうする?
何も手掛かりを得ないまま日が暮れてしまう
このままでは“ヤツ”に会う事は出来ないのだろうか
帰り支度を始めた人たちもちらほらと出始めた
路地で右往左往している僕に小さく囁く二つの声
ネコ様がお見えになられました!!
声の主はこの可愛らしい子猫たちだった・・・
そうかっ!!
僕が急いで向かった先は・・・
お社の扉が開き、その中ではネコ様が鎮座していた・・・
ネコ様、此の地に住み着いたペリカンの事ですが
この路地から街の方へ向かった白い建物の中じゃ
今にしてみれば実際に声を聞いていたかは
定かでは無いのだが、そのとき僕は一心不乱に
この狭い路地を街に向かって走り始めていたのだった
ついに・・・このときがやって来るのか、と・・・
scene 3 につづく・・・
ネコヤド大市公式ブログ
http://ameblo.jp/nekoya-do/
Pig on the tree
http://blog.pig-on-the-tree.ciao.jp/
Delicious Clover (デリシャス・クローバー)
http://blogs.yahoo.co.jp/mokayum
ジャンク&レトロ雑貨・Re-Born (リ・ボーン)
AN RIZ L'EAU (アンリロ)
http://www.an-riz-leau.org/
饗茶庵 (栗の実珈琲)
http://www.kyochaan.com/