〜 This bird has flown U 〜
一体、どれくらい歩いていただろうか?
途中、国道に出ると車の量もぐんと増えて
今まで慣れ親しんできた“川のコチラ側”とは
明らかに異なった世界が広がっていた
二人に会話は一切無かった
その間、俺は兄貴の後ろ姿を見つめていた
そうさ、今までだってずっとそうしてきたんだ
でも・・・もうこれからは・・・
着いたぞ、ここだ!!
と言って突然足を止めた兄貴の目の前には・・・
朽ち果てたベンチ・・・ここが“ムコウ側”への入口なのか?
バスの中では特にする事も無かったので、
窓外の流れる景色をただ眺めていた
とっても不思議な光景だった
良く良く考えてみると、俺は物心がついてから
兄貴が野菜を採るのに使っている軽トラックに
兄貴の手伝いとして一緒に乗っていく以外には、
この手の乗り物にほとんど乗った事が無かったのだ
その時俺の目に飛び込んできたのが、これだ
この地域の農家の祭りか何かなのだろうが、
藁を円錐状に高く積み上げたその姿は
非常に神々しく、そして清らかに映った
更ににしばらくの間バスに揺られていたようだ
兄貴はすぐ近くの町だからって言っていたけど・・・
バス停から目的の家までは森の方に向かう
なだらかで細い坂道を歩いて上る事になった
民家も疎らになってきた頃だろうか・・・
路地のすぐ手前には新たな始まりを待つむき出しの畑、
その更に向こう側には森の木々が身を寄せ合っていた
まるでみんなで力を合わせて雪や風の脅威から、
その身を、そしてこの大地を守っているかのように
俺は思った、ここは“川のコチラ側”に似ている、と・・・
遠くに見えていた森の木々がすぐ目の前に見えた頃・・・
乳白色の曇り空から離れてやって来たかのような
朝靄が木々にかかっていく様子がはっきり見えた頃・・・
目の前の大きな木に守られているかのように
ひっそりと佇んでいる一軒の古びた平屋の家屋
薄っぺらいトタンの屋根には、落ち葉の毛布が
ふかふかに敷き詰められていて何だかちょっと羨ましい
奥に見える木が、まるで背高のっぽの尖がり帽子みたい
そう、この家は・・・“辺り一帯の木々”と共に生きている!!
それはまるで兄貴と俺の家が“川の水”と一緒のように・・・
pain de musha musha ・・・
AND COFFEE !!
どうやら、OPEN しているみたいだ!
俺は手伝いに行ってくるから、
お前は中に入って待っていてくれ
兄貴はそう言うと、家の裏手に向かっていった
兄貴と別れた俺は、庭から部屋の中を伺ってみた
白く塗られた障子戸にはめ込まれたガラスの先には、
ストーブのやわらかいオレンジ色の光が漏れていた
引き戸の扉に裸電球の外灯がついた玄関なんて、
本やテレビでしか知らない昭和の風景なんだけど・・・
何故かここには心の底から懐かしい気持ちになれるんだ
でも、中に入るのには確かに少し躊躇があった
この中は俺が考えている“ムコウ側”なのか、それとも・・・
中に入るとひと続きの板張りの部屋になっていて、
部屋の中ほどには外で見たストーブが据えられている
このストーブの炎や随所に備えられたランプの明かり、
外の明るさによって部屋はゆるやかに照らされていた
テーブルの側や・・・
本棚の脇など、非常にパーソナルな仄かな明かりだ
そして明かりの周りは深い背景へとかき消されてしまう
こんな雰囲気の空間が俺は大好きだった
どこか秘密めいていて・・・
何かワクワクしてくるような・・・
木の温もりが伝わってきそうな優しい雰囲気に包まれた
カフェのカウンターの中の壁は・・・ペパーミントグリーン!!
そしてカウンターには今日の料理が盛られるであろう
大ぶりの皿が何枚も重ねられていく・・・
そのカウンターを忙しなく、そしてしなやかな動きで
移動している兄貴を眺めていた俺は、ある事に気づいた
他の場所で料理している兄貴を見るのは初めてか?
以前、この近くでフライパンを握っていたと聞いていたが・・・
しばらく家の中をキョロキョロと見回っていた
俺だったが、ようやく窓際の小さな卓に座る事にした
窓の側の大きな木や向こうの木々を眺めていると
とっても安心した気持ちになってくるんだ・・・
“彼らに”守られているのかなって・・・
何でだろう・・・あれほど家を出たがっていたのに・・・
ポールに会いたいっていう気持ちは変わらないのに・・・
目を閉じていると、“川のコチラ側”の事ばかり
まぶたの裏に鮮明に蘇ってくるんだ・・・
“ムシャムシャパン”の盛り合わせだ
そう告げた兄貴は目の前にパンの盛られた皿を置くと、
忙しそうに次のテーブルへと行ってしまった
“ムシャムシャ”・・・musha musha ・・・
そうかっ、思い出したぞ!!
何時だったか兄貴が言っていた、クヌギの木のパン屋だ!
たしか、兄貴の一番のお気に入りのパン屋だって・・・
ふんわりやわらかまん丸パンに、カットされたしっとりパン
穀物の香りいっぱいのつぶつぶのパン・・・
ここのパンは一見するとどれもシンプルなんだけど、
よく見て、味わってみると、ひとつひとつに表情があった
そう、みんなそれぞれにイイトコがあるんだ、って・・・
もうこれ以上考える事は何も無かった
ただ“ムシャムシャ”と皿のパンを頬張っていた
俺は自然と笑顔になっていたようだった
ここに来るまでは無表情だったのに・・・
もち豚と野菜の煮込み 白ワインのクリームソース
兄貴の料理を家の外で食うのは生れて初めてだった
でも、卓上に置かれたこの皿は、この空間に
とても良くマッチしているように見えた・・・
まるで、この店の長年の定番メニューのように・・・
人参・・・蕪・・・水菜・・・黒豆・・・
この季節に旬を迎える新鮮な野菜たちを
自然の甘味や風味、香り、食感に至るまで、
その野菜の持ち味を最大限に引き出すのは
まさに兄貴の料理の真骨頂で・・・
うん、うん、って唸りながら食べてしまった
そして・・・このもち豚なのだ・・・
とろとろに煮込まれたもち豚の滑らかな食感は
まるでひと口ごとに口の中を滑っていくようだ
とろとろの脂身にまとめられていた肉の繊維が
口の中ではらはらとほどけていくって言うのかな?
さらに弾力たっぷりの肉から溢れ出る旨み・・・
この野菜と肉のバランス・・・やっぱり完璧だよ!!
そう言えばここに着く前に兄貴が言ってたなぁ・・・
パンに合う料理を作る
バターと生クリームのまろやかな舌触りのソースは
ふわっとしたコクと香りがして、これが白ワインかな?
さらにスモーキーなベーコンのパンチのある風味!!
でもって、このソースを“ムシャムシャ”パンにつけると
ふんわりしっとりのパンがたっぷりとソースを吸い取って・・・
美味い!! 美味過ぎだよ、兄貴っ!!
パンとソース、それぞれ別々に食べても美味いのに、
合わせるとこんなにも美味いなんて・・・
自家焙煎珈琲 インド産コーヒー豆使用
漆黒のような深みのある液体は、同時に吸い込まれそうな
感覚に陥るくらい清らかに澄んでいるように見えた
息を呑み、唾を飲み、更に一息つき思い切って一口すする
酸味はあまり無く、グンとくる苦味が逆に爽やかだった
これまで兄貴の淹れるコーヒーが全てだった俺は、
少し新しい世界に立ち入った気分で飲み干した
料理に一段落着いた兄貴が俺の席にやって来て言った
実は、今日の友人は元々一緒に働いていたんだ
更にあと二人の仲間がいて・・・そうだなぁ・・・
ちょうど、お前らと同じ、“4人組”だったんだよ
でも、4人がそれぞれの目標に向かって独立して、
今は、4人とも別々の街で頑張っているんだ
そして、自分のいる街に愛着を持っているんだ
兄貴の言葉に俺はただただ俯いて頷くだけだった・・・
ミクマリのフォンダン(ガトー)ショコラ
この前お前が食べたショコラとは
“焼き”を変えてあるんだよ!!
兄貴とこの店の友人の仕事は本当に丁寧で細やかだ
同じ料理やお菓子でも少しでも状況が変わると
それに最もマッチするように仕上げてくる
全ては最高の美味しさのために・・・
おい、小鳥・・・
俺、お前と一緒に飛び立つつもりだったんだ
でも、もうちょっとだけ待ってくれないか?
あの場所で・・・“川のコチラ側”でやりたい事が
また見つかっちまったからさ・・・いいだろ?
建物の横には別にパン屋の入口があった
カフェとは全く趣きが異なっていて、こちらはまるで
絵本にでも出てくるような雰囲気を醸し出していた
目の前のケースには、すぐにでもかじり付きたくなる
美味しそうなパンがきれいに並んでいた
これ、お兄さんと一緒に作ったのよ
ザルの上には見るからに香ばしそうな丸いパン
ミクマリの黒カレーを使ったカレーパン
兄貴のカレーとムシャムシャのパンのコラボ・・・
この響きだけで俺は興奮が湧き上がってくるようだった!!
ボンジュール!
キミが一番この店の焼きたてパンを見届けてきたんだね
それから、みんなの笑顔もね
パン屋の目の前にはとっても大きなクヌギの木
この店を見守って・・・お客さんを出迎えて・・・
雨の日も暑い日もパン屋と一緒だったクヌギの木
ふと足元を見た俺は・・・!!
たくさんのドングリが落ちているじゃあないか!!
よく見てごらん、芽を出しているから
店の方にそう言われて辺りを見回すと・・・
あぁ・・・お前、やったじゃんか!!
そして、芽はきっと大地に根を張り、大きな樹木となって
いつの日か新しいこの地の住人を見守ってくれるだろう・・・
その土地を愛しているからこそ・・・
その土地に根付いているからこそ・・・
いつの日かちっちゃなドングリだって・・・
なあ、ポール・・・
俺、今でもお前の事が羨ましい気持ちは変わらないんだ
俺、きっと外の世界をいっぱい旅して回りたいんだ
でも今日、兄貴とここに来て気づいたんだ
もう少し俺が愛した“川のコチラ側”に根を張って、
兄貴みたいに輝いて・・・
そうしたら、うん、そうしたら必ず会おうな、ポール
この情熱が錆び付かないように・・・純粋なままで・・・
去る1月18日、益子町のパン・ド・ムシャ・ムシャで
行われた、芳賀町のミクマリとのコラボイベント・・・
「pain de musha musha & mikumari」
今回の日記はこちらのイベントを紹介させて頂きました♪
まずは両方の店長さん、この度は本当にお疲れ様でした
そしてお忙しい中、本当に色々とお世話になりました!!
mikumariの店長さん、“兄貴”呼ばわりしてしまい、
ホント、申し訳ありませんでした・・・m(_ _)m
ご存知の方も多いと思われますが、この2つのお店と
小山市のパン屋さん、iipan の店長さんは同じ時期に
同じカフェ(益子のあのカフェです!)で働いていた、
まさに同期の仲間&友人なのです!!
そして、mikumariと宇都宮のカフェ、maruyoshiの
店長さんは何と同級生というのですから・・・
mikumari・・・
musha musha・・・
iipan・・・
maruyoshi・・・
そうです、Cindyにとっての“ファブ・フォー”は、
今、それぞれの街で、それぞれのお店で、
眩いばかりの輝きを放っているのです!!
アチラの“ファブ・フォー”をリアルタイムで
体験する事は出来ませんでしたが・・・
Cindyはコチラの“ファブ・フォー”と同じ時代に
生まれる事が出来て、本当に幸せだと思っています♪
本当にこれで最後ですが、ここまで長い日記を
読んで下さって本当にありがとうございました
pain de musha musha and coffee
栃木県芳賀郡益子町益子4135
0285-72-7874
10:30-18:00
定休日 月・火曜日
http://musha-musha.jugem.jp/
次回のCindy日記ですが・・・
栃木県の“名コンビ”グルメブロガーさんである、
あの方たちが月一で企画しているブログ交流会に・・・
Cindyも(やっと?)参加できました〜♪ (≧∇≦)b