ずーっと昔、天竺(てんじく。今のインドね。)のお話じゃがな、ある山に猿とキツネとうさぎが仲良く暮らしておった。ある時この山に身なりの汚い1人の旅人が今にも倒れそうな様子で歩いてきたのじゃ。そしてこの三びきの獣の所にやって来て
「私はまだ朝から何も食べてません。何か食べ物をめぐんで下され。」
と頼んだのじゃ。
猿は木に登って美味しい木の実を。キツネは川に飛び込んで大きな魚を。うさぎも何か美味しいものを、と森の中を駆け回ったが、とうとうなんにもみつからなんだ。
ウサギががっかりして帰ってくると、その旅人はこう言ったのじゃ。
「お猿さんからは木の実を、キツネさんからはお魚を美味しく頂きました。うさぎさん、あなたは私に何をめぐんでくださるんでしょう?」
何もめぐんでやることの出来ない自分を情けなく思ったウサギは猿に向かって、こう言ったのじゃ。
「お猿さん、たきぎを沢山集めて下さい。」
そして今度はキツネに向かって
「キツネさん、お猿さんが集めてくれたこのたきぎに火をつけて下さい。」
キツネが火をつけると、たきぎは勢いよく燃えだした。すると、ウサギは
「旅のお方、私は働きがなくて、あなたに何もして差し上げる事が出来ません。どうぞ、この私の体を召し上がって下さい!」
と言ったかと思うと火の中に飛び込みウサギは焼け死んでしまったのじゃ。
猿とキツネが声をあげて泣いていると、汚い身なりの旅人は立派な神様へと姿を変え、火の中のウサギの死骸を優しく抱き上げて、こうおっしゃった。
「お前はなんという、優しい心の持ち主だ。さあ、私と一緒に天に昇ろう。天の神様は、いつになっても死ぬ事のない命をお前に与えてくれるに違いない。」
ウサギは神様に抱かれて天に昇っていったのじゃ。
そして月の御殿でいつまでもいつまでも楽しく暮らす事になったという事じゃ。
知らなかった…。ウサギと月の伝説…。今頃初めて知った…。

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