「こんにちは」
「いらっしゃい。あれ…太郎君…?」
「久しぶりやねぇ!おばちゃん!元気やった?」
「元気なもんかえ!?おばちゃんも、77になったでぇ。」
いつかブログで書いたかな。駄菓子屋『いかちゃんく』。『く』とは土佐弁で『家、ウチ』という意味。全国的には『ち』と言うかな。『いかちゃん家』て事ね。
30年以上前、足しげく通ったこのお店。ふざけたオマケのついたグリコ『ギャグメイト』というガムを何個買った事やら。
店内は全く変わっていない。あの頃と同じ。売っているお菓子もほぼ変わらず。ただ…
「おばちゃん、壁に貼ってあるメニュー、飲み物にしか値段が書いてないって事は…」
「うん。もうおばちゃんも歳でねぇ…食べ物は何年か前にやめたわ…」
「そう…。美味しかったのにねぇ…。おでんも、焼きうどんも…お好み焼きも…全部旨かったのになぁ。」
この『いかちゃんく』の特製ソースは格別旨かった。本当…旨かったんです。だからおでんでさえ、そのソースをかけて頂く。たっぷりソースをかけた卵や厚揚げの旨かった事。食べ終わるとお皿に残ったおでんのだし汁で薄まったソースがまた旨い!とにかく僕は大好きだった。
「食べ物をやめた時、壁のメニューも全部取ったけんど、そうするとなんか壁が寂しゅうなってね…。またメニューを貼ってしもうたわ…。」
「素晴らしいですよ。おばちゃん!いいじゃないですか!このメニュー札!おばちゃん!店内、写真とらせてもらっていい?」
「あー、ええよ。こんなきたない店でえいなら。」
「何を言ってのよ!駄菓子屋はこうでなくっちゃ!」
「この店も街開発で、今年いっぱいで終わるきね…」
「え…そうなの?」
「随分、変わるらしいよ。この辺りも。綺麗になるみたいよ…」
でも…なんだろね…。街が綺麗になるのにこの寂しさは。


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