鎌倉太郎のプロジェクトＢ

「自然起床」という言葉がある。皆さんもご存じであろうが、目覚まし時計やアラームによる強制起床でなく、好きな時間に起きる幸福である。これに対し「自然就寝」という言葉もある。僕だけかもしれないが。公演本番近くなると、深夜遅くまで連日作業が続く。みな、他の役者は、いい時間になると、家に、当たり前に帰るのだが、僕はほぼ連日稽古場に泊まってく。そして眠気で意識がなくなるまで作業してゆく。その作業場が例え、家から自転車で数分の距離でも泊まって作業する。眠気を感じ、歯磨きして、コンタクトを外して、ジャージに着替えて、布団に入り、電気を消す、という万全で就寝に臨むのでなく、あたかも、たった今迄、活動してたかのような状況で倒れこむのである。その瞬間をおちる。その瞬間「自然就寝」の醍醐味を食らう。ただ体に悪いので最近は先に歯磨きし、コンタクトも外し、着替えて作業に臨む。

サンシャイン60から東京の街を見た時の感覚を今でも覚えてます。皆さんも高層ビルから関東平野を見た事があると思います。とにかく広い。山の稜線は、かすむほど遥か向こう。見渡す限りの街。ビル。山と海にはさまれた南国高知の街で育った僕にとって、この巨大な街は、池や、沼しか見た事のない人間が海を見た時の感覚に近いかもしれない。隙間なくしきつめられた建物。蟻の行列にも似た車の列。その全て、人間が造った事を考えると、気が遠くなる。気が遠くなる程の建物の数。気が遠くなる程の、莫大なそれらの建設費。それらを造った、気が遠くなる程の労働力。東京中にある建物にかかった費用を全部集めると、どんな額になるのだろう、などと想像もつかない想像をする。そして何気ない、稽古場から自宅アパート迄の帰り道。アスファルトを見て思う。道という道がほとんど舗装されてる。あの道も。この道も。そしてそれは日本全国津々浦々の道という道が。これらもきっと誰かが少しずつ、少しずつ舗装していったに違いない。気の遠くなるような帰り道である。